「里香、正男君。このワンちゃん相当弱っているわ。頑張っていたのね。今からサブちゃんたちがお世話になっている先生のところに連れて行くわ。正男君を信頼しているようだから、サブちゃんの様に優しく抱っこして。里香も付いてきて」
正男は美恵子が言うように優しく抱きかかえ、立ち上がった。
「お母さん、小さなワンちゃんたちはどうするの?」
「ちゃんとお葬式を挙げてあげましょう。でもまずお母さんワンちゃんのことが先」
美恵子のこの言葉に周りの反応は微妙だった。
その時、先ほどの通報で警察がやってきた。
周囲の人は空き地の奥の方を指差し、簡単に事情を説明している。
「奥さんたち、危険ですから下がってください」
「お巡りさん。ご苦労様です。でも大丈夫です。この母犬はこれから病院に連れて行きます。それからこの3匹の子犬はウチでお葬式に出します。全て私が責任を持って対応しますから安心してください」
ここまでしっかり言われたら警察も何も言えない。
「これから病院に連れて行くということなので、死骸については警察でお預かりしますので、後で署まで引き取りにお越しいただけますか」
そう言うと警官たちはパトカーの中に用意していたビニール袋を取り出し、乱暴にその中に入れた」
「乱暴にしないで」
里香が声を荒げた。
警官たちの意識としては子犬の死骸ということもあり、扱いがとても雑だったのだ。その様子が里香の心を傷付けていた。
「ウチでお葬式を出すと決めた時から家族です。里香の言う通り、優しく扱ってください」
美恵子の言葉に警官はばつが悪そうに無言になり「お待ちしています」という言葉だけを残してその場を去った。
周りで見ていた人たちは厄介ごとが片付いたという顔をした人がいたり、美恵子や里香、正男の行動を感心した風で見ていたりと様々だった。