美恵子たちはそこから病院に向かった。歩いても行けるくらいの距離だった。
いつも行っている病院なので受付の人とも顔見知りだが、正男が抱きかかえている野良犬を見て驚いた。
「辺見さん、この犬は?」
「野良犬。でもさっきウチの家族になったの。急患扱いで診ていただきたいの。おねがいします」
「今ちょうど先生の手が空いていますので、すぐに診察室にお願いします」
その言葉で美恵子と正男が診察室に入った。
「里香ちゃんたちは待合室で待っていてね」
受付の人が言った。里香は心配そうな表情で待合室の椅子に座った。
ここの院長は命についてはとても真摯に向き合う先生のため、野良犬の様子を見ても嫌な顔をしない。たまたま辛い境遇に置かれていただけだということで、治療には一生懸命だった。ただ、素人目に見ても衰弱しきっており、威嚇した時は最後の力を振り絞っていたのかもしれない、という感じだった。安心できる人たちと出会えたことで安堵し、身を委ねているということが言葉を交わさなくても分かる気がしていた。
「辺見さん、このワンちゃん、とても衰弱しています。今日は私たちでお預かりします。点滴などで回復を図りますが、もうあまり生きられないかもしれません。幸いなことに、簡易検査でしたが悪い感染症などは持っていませんでしたので、ご安心ください」
獣医は野良犬の現状について語った。
「先生、では明日、また伺います」
美恵子たちはそう言って診察室を出た。
「ワンちゃん、どうだった?」
里香が心配そうに尋ねた。
「先生が預かってくれるって。でも随分弱っているそうよ。助かると良いわね」
「里香、今日神様にお願いする」
「そうね、元気になれるようみんなでお祈りしましょう」