一夜明け、次の日の朝を迎えた。美恵子は警察に電話して、子犬の亡骸を引き取りに行くことを伝えた。その後、ペットの葬儀を引き受けてくれる業者を探し、電話していた。今回の件の次第を説明し、警察を訪れる時間に署で会うことにした。
10時、美恵子と業者が警察署で一緒に3匹の子犬の亡骸を預かった。業者は野良犬の子供という話は聞いていたが、警察がきれいにしてくれたわけではないので、亡くなった時のままの状態で引き渡されたことに不満を感じていた。確かに、死体をきれいにすることは警察の仕事ではないが、亡くなった命を見送る仕事をやっていることで、動物に対する畏敬の念は持っている。言葉には出さないものの、美恵子と業者には亡くなった子犬に対する気持ちの確認ができた。美恵子は良い業者を探せたことを内心喜んでいた。
「この3匹も喜んでいるかもしれませんね。奥さんのような優しい人に出会えて。もし、母子がもっと早く奥さんのような人と出会っていたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに」
そう話しながら、担当者の人の目にうっすらと涙が見えた。
「この3匹は身体をきれいにして荼毘に付します。お骨になった後、ペット専門の霊園に安置する、ということで良いですか? その時、名前もいただきたいんですが・・・」
「そうね、名無しの権兵衛では可哀そうだものね。子供とも相談してご連絡します。私、これから母犬を預けている病院に行かなくてはならないので、後はお願いできるかしら?」
「はい、お任せください。火葬は空き具合で決まりますので、改めてご連絡いたします」
「よろしくお願いい致します。では、私はこれで・・・」
美恵子はそう言うと、動物病院に行った。まずは受付に顔を出し、様子を尋ねた。
「辺見さん、おはようございます。実は今、お電話しようとしていたところなんです」
受付の人が険しい顔で言った。
「何かあったのですか?」
「ウチではできる限りのことをしたつもりなのですが、今朝の先生の話では衰弱がひどく、あと数時間の命、ということでした。残念ですが・・・。せっかく良い人と巡り会ったのに・・・」
美恵子はちょうど手が空いているということを聞いたので、診察室に入り、院長に詳細を尋ねた。
「辺見さん、お聞きになったと思いますが、衰弱がひどく、回復は望めませんでした。もしかするとわが子のことを知らせることができたことで気力を使い果たしたのかもしれません。点滴や強心剤などを使い、何とかしたいと手を尽くしたのですが、如何せん、基礎的な体力がなくて・・・。でも身体はきれいにしてあります。本当はとてもきれいな毛並みのようで、サブちゃんと同じ明るい茶色でした。痩せて汚れていたので最初は判別するのが難しかったのですが同じ犬種だったようです。これも何かのご縁ですかね」
院長の話に黙り込んでしまう美恵子だったが、最後をみんなで看取っても良いか許可を得た上でいったん自宅にも取り、里香と正男を連れてくることにした。事前に自宅に電話し、里香にそのことを話し、少し待っていてもらうことにした。
「先生、それでは娘たちを連れてきます」
「分かりました。お待ちしています」