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犬のお葬式 1

「今日はこのワンちゃんのお通夜だ。静に見送ろう。でも、ただのワンちゃんでは可哀そうだ。何か名前を付けてあげないと・・・」

 一郎が言った。子犬の名前も考えないといけないと思っていると、美恵子は母犬の葬儀の手配を忘れていることに気付いた。

 警察で会った時、名刺をもらっており、そこには携帯電話の電話番号も書いてあったので、すぐに電話した。6時を回っていたがつながり、母犬が亡くなったことを伝えた。その上で子犬と一緒に荼毘に伏せることが可能かどうかを尋ねた。

「お電話ありがとうございます。火葬のことですが、明後日しか取れませんでした。1日余裕があるので、予定より大きめの棺桶を使うことでできますよ。明日中に名前を考えてご連絡ください」

 外に出ているためか、事務的な回答だったが、一緒に天国に送ることができると分かり、みんなに伝えた。

「そうか、それは良かった。家族で同じところに行けるね」

 一郎が少し笑顔で言った。

「話を聞くと、とても愛情深いお母さんだったんだろね。人間と犬の違いはあっても、親子の愛情は変わらないんだな」

 感慨深げに一郎が言った。

「僕ノ場合ハドウナノカナ?」

 正男が質問した。最初の頃はそういうことはなかったが、最近はいろいろなことを覚え、里香と同じように質問することも増えてきた。

「正男君、君の愛情も同じだよ。だから野良犬にも優しくできたじゃないか。そういうことは頭で分かっていてもなかなか実践できることではない。それができた正男君は、やっぱりウチの子だよ。里香と同じく、優しく育っている」

 一郎の言葉に、正男の表情も少し緩んだ感じに見えた。

「子犬たちはこうやって見送ってあげることはできなかったけど、せめてお母さんだけはこれまで苦労を労う意味を含めて見送ろう」

 そう言って簡単な祭壇のようなところに、サブがいつも食べているものを置いてあげた。

 サブもモモも本当は食いしん坊なので供えてある餌を食べるのではないかと心配していたが、なぜか口を付けることはなかった。彼らなりに食べてはいけないもの、と理解しているのかもしれない。

 本来、お通夜では故人の思い出を語り合ったりするものだが、初めて家にやってきたわけだからそういうことはできない。その代わり、ここに至るまでの生き様を想像して話し合い、きちんと成仏できるよう祈る、ということで1日が終わった。


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