次の日、葬儀の業者が辺見家を訪れた。
「ご遺体はどちらですか?」
「こちらです」
美恵子が対応し、野良犬の祭壇のところに案内した。
「名前を考えていただきました?」
「はい、母犬はぺス、子犬の男の子はソラとレオ、女の子はコムギでお願いします。お願いした通り、母子一緒の棺で大丈夫ですか。あの子たち、一緒に生きていたから、天国に送る時も一緒が良いと思うので」
「分かりました。では子犬のソラ君とレオ君がどちらかを決めなければなりませんが、毛の色が濃いほうをレオ君にしてください」
「かしこまりました。火葬が明日なので、今晩はみんなとご一緒されますか? それもあるかと思い、ソラ君たちも連れてきています。お顔をご覧になりますか? きれいにしてありますので」
「里香、会いたい。お母さんと一緒にしてあげたい」
「分かったわ。じゃあ、リビングのほうに運んでいただけますか?」
業者の人がお棺を運び込み、丁寧に4匹を一緒にした。
「ミンナ一緒ニナッタ。嬉シイカナ?」
「嬉しいわよ。何だか笑顔に見える。良かったね、ぺスちゃん。一緒になれて」
棺の中を覗き込みながら里香が言った。その言葉にみんなの目に涙が浮かんだ。
「ミンナ、目カラ水ガ出テイル。デモ、僕ノ目カラハ出テイナイ。コウイウ時ハ水ガ出ルモノナノ?」
「正男君、水じゃなく涙よ。悲しい時、自然に出るものなの」
美恵子が言った。その言葉を聞いた正男は少し悲しそうな顔になった。
それを見て、先日から正男の表情が豊かになっている気がしている美恵子だった。
犬の母子は再び祭壇に置かれ、改めてみんなでお線香をあげた。
業者の人たちはそこまでは辺見家に居て、火葬の打ち合わせ後に帰った。
「明日、火葬だけど、正男君、ぺスちゃんのこと、どう思った?」
祭壇の前で美恵子が言った。里香もそこにいる。
「最初、里香チャンヲ守ロウト思ッタ。デモ、ぺスチャン、カワイソウニ思ッタ。何故サブチャント違ウノカ、分ラナカッタ。デモ、同ジ命。ダカラ守リタイト思ッタ」
「正男君・・・」
里香が小さな声で言った。
「そうか、正男君にはぺスちゃんもサブちゃんも同じに見えたんだ。人間はつい偏見で見てしまうことだったけど、私、教えられたわ。正男君、ありがとう。里香、正男君が言ったこと、分かった?」
「うん、私も分かった。今まで以上にサブちゃんやモモちゃんをかわいがる」
「そうね、ここにいるみんなを大切に考えよう。夜、お父さんにもそのことを話すね」