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犬のお葬式 3

 翌日の10時、葬儀社の人たちがやってきた。お棺を運び出し、車に乗せた。この日は一郎も含め、辺見家の全員が乗り込んだ。サブやモモも一緒だったが、いつものようにはしゃいではいない。もしかすると、何となくこれからのことを理解しているのかもしれない。

 火葬場は辺見家からは車で1時間くらいのところだ。その間、誰もほとんどしゃべらない。

 着いた時、葬儀社の人たちが棺を火葬炉のところに運んだ。棺の窓を開け、最後のお別れをする。

「ぺスちゃん、レオ君、ソラ君、コムギちゃん、安らかに眠ってください。短い間だったけど、あなたたち、ウチの家族よ。天国で幸せにね」

 最後に美恵子が声をかけた。その後、棺は火葬炉の奥のほうに移動された。

 炉内に炎が見えたが、一郎と美恵子の心の中には今、身体が燃えている4匹の様子が頭の中に浮かんでいた。

「1時間くらいかかりますので、別室でお待ちください」

 葬儀社の社員が言った。

「里香ちゃんも正男君もお葬式は初めてよね。人も同じように死んだら火葬されるの。それで骨だけになって、お墓に収まるのよ。そこが死んだ後のおウチになるの」

「僕モ死ヌノ? 死ンダラ焼カレルノ?」

 正男は素直な気持ちで尋ねたが、辺見夫妻には想定外の質問だった。現実には正男はロボットであり、火葬をするわけではないし、正男の死というのは何を意味するのか一郎も美恵子も答えを持っていない。だから明確に正男の疑問には答えられない。少し間をおいて一郎が言った。

「正男君はウチの家族だ。だからずっと一緒なんだよ」

 一郎に答えられることはここまでだった。もちろん、言いたいことはたくさんある。だが、言えることと言えないことがある。歯切れが悪い答えになったが、曖昧なままの会話になった。そして、呼気まずい雰囲気のまま、時間だけが過ぎて行った。

 1時間後、葬儀社の社員がやってきた。

「ぺスちゃんたちの火葬、無事に終わりました。火葬炉のところまでお出で下さい」

 火葬炉から引き出された台の上には、4匹分のお骨があった。骨壺も4つ用意されていた。側面には名前が書いてある。そこにお骨を拾って入れていくわけだが、子犬の骨はとても小さい。どの骨がどこの部位か分からない。葬儀社のスタッフに教わりながら、丁寧に骨壺に納めていた。ここで用いる箸は違い橋と言い、長さが異なる。指先がまだ器用に動かせない2人だが、一生懸命使っていた。少々時間はかかったものの、きちんと納め、埋葬する霊園に向かった。

 ペット霊園としての施設だが、納骨前に住職からお経をあげていただいた。こういう流れは人間の場合と似ている。ここに眠るペットたちはとても幸せな生き方をしたのだろう。ぺス一家もここで初めて幸せを手に入れたような気持ちになってくれたのではと思う辺見家の人たちだった。正男には理解できないこともあっただろうが、一連の出来事を経験したことでまた一段階ステージアップしたはずだ。

 お骨は大きな建物の中に棚が作ってあり、そこに安置する。ちゃんと名前が記されているので、後でお参りに来た時に間違うことはない。きちんと供養料を支払うことで、定期的にお経をあげてもらえる。もちろん、一郎はそこまでお願いし、霊園を後にした。

 家を出る時、辺見家のみんなは葬儀社の車とは別だったので、ここで葬儀社の人たちとは別れた。

 本当に昔から一緒であれば写真もあっただろうが、家に帰っても飾るものがない。位牌を準備したら、霊園の住職に御霊移しをお願いしなければならない。近日中に再度訪れ、家の中に安置してあげようということになった。


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