ぺスたちのことは近所で評判になった。野良犬として近所で煙たがられていたにもかかわらず、辺見家で病院に連れて行ったり、葬式まで行なったという話が広まったのだ。
そして、その時に活躍した正男のことも同時に噂のネタになっていた。
何時から同居し暮らしているのか、どこから来たのか、親戚なのか隠し子なのか、日本人なのか外国人なのか、といったことがまことしやかに拡散しているのだ。
まさか正男がロボットであることは誰も気づいていないが、仮に分かってもその事情まで説明するとなると大変だ。そういったことに無理解の人の場合、排斥の対象になることがある。
だが、ペスと対峙し、大人しくさせ、里香たちを守った行為は称賛されている。だからこそ素性を知りたくなったのだろうが、あれから辺見家を訪れる人が何人かいて、美恵子もその対応に追われている。家事などもあるので立ち話程度で済ませているが、興味を持つ人の場合、根掘り葉掘り尋ねてくる。こういうこともあろうかと想像していたが、もう少し静かなものだと思っていた。散歩の時の出来事、近所のヒマな主婦たちの格好のネタになった訳だ。
ある日の夜、美恵子は一郎に相談した。だが、正男は預かっている立場であり、どこまで話して良いものかの判断はつかない。ということで一郎は田代に電話して相談することにした。
次の日、田代がやってきた。そこには一郎と美恵子がいた。
「すみません、ご迷惑をおかけしているようで、申し訳ありません。そういうこともあるのではないかと懸念していたのですが、散歩でのことがきっかけになり、話題になったようですね。ちょっとしたワイドショーネタのようなことですし、それが近所だということになれば、押しかけるようになるのかもしれませんね。変にネットなどで拡散されても困りますので、ご連絡いただいて良かったです。研究所でもモニターしていますので、ぺスちゃんのことは知っていますし、そのことがどんな広がりになるかも考えていましたので、こちらからご連絡しようと思っていました」