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噂話 3

 美恵子が暗に帰るように促したが、沢田は聞く様子はない。正男のことが気になり、自分で話を聞きたいと思い、乗り込んできたのだ。この手の人間の場合、人の制止を聞かず、平気で家の中に入り込んでしまうことがある。特に今回の場合、自分の興味が優先しているので、この日は平気で上がり込み、リビングのところまでやってきた。

 当然、田代の姿が沢田の目に入った。

「あら、本当にお客様だったの」

 美恵子の話を疑っていたのがこの一言で分かったが、辺見家にとっては本当に迷惑な来客であることは間違いない。

「すみません、沢田さん。ご覧の様に今、お客様がいらっしゃるので、お引き取りいただけますか」

 今度は一郎がはっきり言った。

「まあまあ、すみませんね。ここに正男君もいらっしゃるから、一言だけで失礼するわ」

 そう言うと、沢田はちゃっかり座り込んでしまった。この様子からすぐに帰る気が無いことが分かった。

「ねえ、正男君。この前は大活躍だったわね。近所では評判よ。私はその様子を見ていないから詳しく教えていただけるかしら」

 沢田は正男を見て問いかけだが、正男の認識では一郎の態度を見てこの人に対して警戒し、返事しない。

「あら、私の言い方が分からなかったのかしら。やはり、外国からお越しになった方?」

 想定していたような質問だった。先ほど打ち合わせしたことが早速役立つような状況になった。そこで一郎が口を開いた。

「そうです。だから日本語が上手く話せません。状況の説明と言われても私たちのような会話は難しいです。本人も困ると思いますし、ご覧の様に今、お客様がいらして大事なお話をしている最中ですから、申し訳ありませんが、お引き取りいただけますか」

「分かったわ、何時までこちらにいらっしゃるの?」

「まだ分かりません」

「そう、お忙しいところをごめんなさい。またお邪魔させていただくわ。正男君、またね」

 沢田はそう言って辺見家を後にした。

「田代さん、すみません。あの方は近所でも評判のスピーカーで、あることないことを言いふらすところがあるので、少し煙たがれているの。だから余計にいろいろな話題のネタを探し、話をしたいのでしょうね。正男君がこの前のことで近所で話題なっているので、自分の口から何か話したと思っているのでしょうね。いい迷惑だわ」

 美恵子が言った。田代ははっきりとは言わなかったが、表情からその心は読めた。

「あのおばちゃん、何しに来たの」

 里香が言った。

「正男君とお話ししたかったのかな。でも、あのおばちゃん、話を広げすぎるから誤解する人も多いの。里香もどこかで話しかけられても分かりませんって言うのよ。正男君も何もしゃべらなくていいわ。私たちでお話しするから・・・」

「ふうん」

 少し怪訝な感じで里香が返事した。


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