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噂話 6

 次の日、美恵子がゴミを出しに家から出ると、近所の人がそばに寄ってきた。顔を見ると少し険しい表情だ。同じように家の周りに人がいる状態と比較しても、雰囲気が異なっていた。美恵子のその変化を不思議に思っていたが、もしかするとと思い当たることもあった。

 昨日、スーパーで沢田に会った時、誘いを断ったことに怒り、変な噂を流したのではという危惧だ。

 そう考えながらいつものようにゴミを出したのだが、その中の一人が口を開いた。

「辺見さん、そのゴミの中に変なものは入っていないでしょうね」

 思ってもいない質問に美恵子は驚き、咄嗟に返事できなかった。

「・・・奥様、おっしゃられている意味が分からないんですけど」

「ふーん、でも最近、お宅によく分からない外国人がいらっしゃるそうじゃない。昨日、沢田さんから伺ったのですが、ご自身の国のこともはっきり教えて下さらなかったそうですし、もしかすると不良外国人の不法入国じゃないかしら、とおっしゃっていたわ。もしそうならば、ゴミとして出されたものの中に変なものが入ってるんじゃないかしら、と思って声をかけたの」

 この言葉で美恵子は事情が分かったわけだが、全くの言いがかりだ。沢田は自分の要求が通らなかった、知りたいことが教えてもらえなかったといった理不尽な気持ちから、勝手に悪い噂を流したのだ。当然、美恵子は反論する。

「奥様はそういう噂の域を出ないようなことを信じていらっしゃるの? 正男君の名誉、ウチの信用のこともありますし、そういった根拠のないお話を本気で思われるのなら、主人と相談した上でしっかり対処させていただきます。今日は生ゴミの日ですので、皆さんのゴミ袋の中身と同じようなものだと思いますが、お疑いならここで袋を開け、ご確認ください」

 静かな口調ではあるが、怒りがこもった感じは全員に伝わった。その迫力に負けてか、別の主婦が言った。

「いえ、そこまでは結構です。ただ、私たちは沢田さんの話をうっかり信じてしまい・・・。本当に失礼なことを言ってしまいました。申し訳ありません」

「奥様もそれでよろしいんですか?」

 美恵子は最初に質問した主婦に尋ねた。完全に納得した様子ではないが、しぶしぶ納得したような感じで美恵子に謝罪した。

「確かに沢田さん、話を盛ったり、間違ったことをおっしゃることがあるし、この前の一件で辺見さんや正男君が目立ったものだから、そういうところが面白くなかったのかもしれないわね。話の内容を思い出しても、どこから来たのか分からないとか、自分のところに誘っても良い返事をもらえなかったなどのことから妄想が広がったようにも思えますしね。辺見さんのお宅のことを考えれば、そういったことをなさるようなところでないことはお付き合いの中で分かっているし」

 そういう話が出る中で、最初に美恵子を疑った人もだんだん申し訳なさそうな表情になっていった。

「皆さんがおっしゃっていることが分かる気がしてきた。そうだとすると、沢田さんの話、これから気を付けないと」

「分かっていただけたようで安心しました。沢田さんの件、ウチで対応しますので、皆さんもよろしくお願いします」

 毅然とした美恵子の態度は、その場にいた人たちを納得させた。


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