安井の質問に副署長は首を横に振った。
「実は俺にも詳しいことは分からんが、どうも警察庁かららしい。理由は分からん。ただ、警察も組織だし、そういうところからの指示だと通報にあったような事件性は無いはずだ。だから今回、署に来てもらったのは住民へのパフォーマンスということで、数日後に説明して終わりにする予定だ。一応、署内に入ってもらい、裏口から出てもらう。車が待機しているので、そこからどこかに向かうということだ」
「・・・。何なんですか、この件。刑事人生の中で初めてだ。何の事情も聞かずに裏口で放免ですか」
「そうなるな。まあ、今回の件は何もないということだから、それはそれでいいじゃないか。我々が忙しくないことは良いことだよ」
その言葉に安井は不服そうな顔をしていたが、事件性がないということと裏口からこのまま放免という流れが決まっている以上、安井には何もできなかった。
副署長と田代、正男は一緒に署内に入ったが、その様子を安井は見送るだけだった。
予定通り田代と正男は待機していた車に乗り込み、そのまま研究所に向かった。
しばらくすると研究所に到着したが、そこには所長や岡田主任が待っていた。
「お帰り、田代君、正男君。お疲れ様でした」
「ココハ研究所デスネ。警察ニ行カナクテ良イノデスカ? デモ、僕ハ何モシテイマセン」
「そうだよ、正男君は何もしていない。だから警察に行くふりをしてここに来てもらった。何も心配することは無いよ。1日ここにいて身体のことやシステムのことをチェックしよう。モニターで見ていたが何も問題ないはずだ。よりきちんとした状態で里香ちゃんたちのところに戻ろう」
岡田が言った、所長もにこやかに正男を見ている。
その様子を確認し、田代は美恵子に電話した。
「今、研究所に着きました。お話しした通り、一旦警察署に行ってそのまま裏口から出ました。正男君を連れに来た刑事さんは事情を知らされていなかったので少々警察で副署長と言い合いをしていましたが、事前に所長から警察庁に連絡を入れていただいていたので、特別な混乱もなく事が運びました。正男君は1日だけ研究所でメンテナンスを行ないます。いつもより長めですが、あまり早く戻っても変でしょうから」
田代が言った。
「分かりました。正男君に余計な負担がかからなくて良かったわ。里香には上手く話しておきますから安心してください」
「里香ちゃんも心配しているでしょうからね。正男君は私が連れて行きますから」
「お待ちしています」
「正男君、里香ちゃんのお母さんも何もなくて良かったねって言ってたわ」
「良カッタ。早クミンナニ会イタイ」
そういう会話を所長と岡田も耳にしていたが、そういった人間的な感情も含めて対応しているようにこのプロジェクトの成功を確信しているようだった。