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アジサイの頃 2

「この前の噂話の一件、正男君の心に変な感情が生まれなくて良かった。純粋な心のままに成長してくれれば、預かった意義があるし、何と言っても里香ときちんとお話ができる姉弟ができたみたいで嬉しい」

 ゆっくり散策していたが、腕時計を確認するとすでに12時を回っていた。

「お腹空いたわね。お昼にしない?」

 美恵子が言った。その言葉で車に戻り、鎌倉駅のほうに向かうことにしたが、昼頃になれば休日でなくてもそれなりの人を見かける。駐車場のこともあるし、駅周辺でレストランを見つけるのは難しいかもしれないと思い、そのまま海岸のほうに向かい、途中で探すことにした。

 おしゃれな感じの店が並ぶが、駐車場の様子を見ながらとなるとどこでも良いというわけではない。しかもペット連れだ。

 最初に入った店はペットお断りだった。雰囲気的には良いところだったが、サブたちも一緒でなくては連れてきた意味がない。

 しかし、そこのスタッフは親切にもペット可の店を教えてくれた。それどころが、空席状況を電話で問い合わせてくれたのだ。仕事中にもかかわらず、他店のことを教えてくれただけでなく、空席確認までしてくれたことに辺見夫妻は何度も頭を下げ、礼を言った。

 その店は歩いて行けるくらいの距離にあった。

 事前に連絡があったからか、店に着くとスムーズに席に通された。他の客もペット連れだ。食事のオーダーを済ますと、自然に隣のテーブルの人たちと話すことになった。

「ウチの子はサブと言います。猫のほうはモモです」

 まずは名前の紹介だ。隣のテーブルの人は犬を連れている。自然に犬の話題になるが、美恵子がその犬を撫でようとすると唸り声を上げた。

「ごめんなさい。ゴロウ君は人見知りで、初めての人を怖がるんです。何度か会った人には大人しいんですが、警戒心が強いもので」

「ワンちゃん同士ではどうなんですか?」

「サブちゃんには吠えないので、相性は悪くないんじゃないかしら」

 そういう話をしているところに、正男が手を伸ばした。

 そのご主人はゴロウが噛みつくことを危惧して「危ない」といったが、大人しく撫でられている。

「えっ?」

 ゴロウの飼い主が驚いた。

「初めて会った人に吠えなかったのは初めてですよ。とても警戒心が強い犬なのに・・・」

「でも正男君、以前も近所で怖がられていた野良犬に警戒されず、大人しくさせたことがあります。彼には相手に警戒心を与えない何かがあるのかもしれません」

「そうですか、それは凄い」

「ゴロウ君、可愛イ」

 正男が言った。その言葉を聞いて犬の飼い主が言った。

「外国の方ですか?」

「今、日本に来ているんです。海外での生活が長いもので」

 この辺りの会話は田代と設定している内容で話を進めることになっている。

 そこが理解してもらえれば後はペットの話で盛り上がった。

 ただ、本来は食事のために立ち寄っているので料理が運ばれてきたら、そちらに集中しなければ冷めてしまう。その辺りはお互いに理解しているので食事は食事で集中した。

 辺見家は鎌倉に観光も兼ねてきているので、食事の後はまた散策するつもりだった。

 ペットの話も楽しく、話し始めたら尽きないような感じがしたし、里香が少しつまらなさそうな状態になっているので、食事が終わったら隣の席の人には次の予定があることを告げ、その場を後にした。


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