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第42話 お風呂リベンジ

 にゃんごろーと長老は、脱衣所の手前で、プルプルプル~と体を震わせて水気を飛ばした。

 それから、脱衣所の扉を開けて、まずは長老、それからにゃんごろーの順で、浴場を出る。

 カラカラと扉が閉まっていく音を聞きながら、足ふきマットの上で、にゃんごろーはもふっと片手を長老に突きつけて宣言した。


「きょーは、にゃんごろー、じぬんれ、かららをかわきゃすかりゃ! ちょーろーは、らまってみれれ!」

「ほいよー」


 昨日、習得したばかりのドライヤー魔法で、自分で自分の体を乾かす宣言だ。

 子ネコーの瞳には、決意とやる気が満ち満ちていた。

 長老のゆるっとしたお返事に、キリリ顔で頷くと、子ネコーは足を肩幅に開き、両手を上げた。

 これから、体操でも始めるのかといわんばかりだが、始まったのは魔法付きの歌と踊りだった。


「ちょーろいいかじぇ、きーもちのいーかじぇ♪ にゃんごろーのきゃーらだーを、ふわっとシャラッと、にゃ・にゃ・にゃ~♪ うー♪」


 突き上げた両手をワキワキしながら、お尻と尻尾をふりふりする子ネコー。

 お歌が終わった時には、しっとり濡れ濡れ子ネコーは、ふわっとサラつや子ネコーに大変身していた。


「おー。上手に出来たのー」

「むふん!」


 早速、長老に褒められて、腰に両手をあてて得意げに胸を反らす子ネコー。

 じーじたちとカザンからも、称賛の声と拍手を浴びせられると、さすがに照れ臭くなってしまい、お手々を頭に当てて、「うにゃっ」と体を丸めた。



 子ネコーと長老のお船休暇。その締めくくりは、お風呂タイムだった。

 にゃんごろーの描いた絵を見ながらネコー部屋でまったりした後は、また例の和室へ移って夕ごはんを食べた。メンバーは、ネコー部屋に集合していた面々だったけれど、移動のどさくさに紛れて、クロウはいつの間にかいなくなってしまっていた。挨拶もしないままお別れしてしまったのが残念で、しょぼんとしてしまったにゃんごろーだったけれど、ミルゥに構われながら美味しいごはんを食べている内に、クロウのことはすっかり忘れてしまった。


 そうして、食後のお茶まで堪能した後は。

 今日の締めくくり、お風呂タイムだ。


 にゃんごろーと一緒にお風呂に入りたいミルゥに、女風呂に攫われそうになる事件もあったけれど、「にゃんごろーはもう、あかちゃんネコーら、にゃいきゃらぁ~!」という子ネコーの必死の叫びにより、お船の風紀は守られた。

 ミルゥとナナばーばは、未練たらたらだったけれど、にゃんごろー本ネコーにそう言われてはあきらめざるを得ない。一緒にお風呂に入りたいのはやまやまだが、それで子ネコーに嫌われてしまっては元も子もない。

 代わって、ほくほくなのは、じーじたちとカザンだ。三人は、足首から羽が生えたかのような軽やかさで、にゃんごろーを伴い、男湯ののれんをくぐっていった。

 男三人は、すっかり童心に帰り、にゃんごろーに請われるままに、泡で遊びまくった。それから、ゆったり湯船に浸かって、壁に描かれたお魚の鑑賞会。

 女湯の方は、海の中ではなくて空の中にいるような絵になっているということも、この時に聞いた。そっちも見てみたいと、女湯に思いを馳せるにゃんごろー。マグじーじがニヤリと笑いながら「明日から女湯と男湯が交替になるぞ」と教えてくれた。子ネコーに、また一つ新しい楽しみが生まれてしまった。


 そうして、ゆっくりお風呂を楽しんだ後は、昨日のリベンジだ。

昨日は、転ばないように慎重に歩かなければと力が入り過ぎたせいか、長老と二人で盛大に転びそうになり、結局、一緒にお風呂に入っていたセンリとニコルに抱きかかえられての退場となった。「今日こそは!」と張り切ったものの、張り切り過ぎて大失敗しそうになったけれど、助けてくれたカザンに「まずは、深呼吸をして落ちついて。それから、ゆっくり歩けば大丈夫だ」とアドバイスをしてもらって、その通りにしたら、今度は大成功だった。

 見事リベンジを果たしたことで、一つ自信をつけたにゃんごろー。

勢いに乗ったまま、キリリとしたお顔で、今度は「ひとりで体を乾かす」宣言をした。昨日も最終的に成功させてはいるものの、長老を焼きネコーに仕掛けたり、氷ネコーに仕掛けたりとで、一度ではうまくいかなかったのだ。

 今日こそは、一発で成功させるぞと息巻いたにゃんごろーは、見事、宣言通りにやり遂げた。

 みんなにも褒めてもらえて、照れながらも喜びを噛みしめていると、カザンがさらに嬉しいことを言ってくれた。


「そうだ、にゃんごろー。私の髪も、にゃんごろーの魔法で乾かしてもらえないか?」

「え? ニャニャンしゃんのおきゃみを?」

「ああ」

「みょ、みょみょみょみょみょ、みょちりょん! まきゃせて! れも、みゃって! しょのみゃえに、もーいっきゃい、ちょーろーれ、れんしゅーしゅるきゃら!」

「ああ、分かった」

「長老の意見は、無視かい……」


 にゃんごろーの魔法の見事さに感心したカザンが、自分の髪も乾かしてほしいと頼んできたのだ。子ネコーは、大喜びの大張り切りで舞い上がった。二つ返事で了承しつつも、微妙に冷静に、事前にもう一度練習させてほしいと申し出た。もちろん、カザンに異論はない。

 ぼそりと不満を呟いた長老は、まだ濡れネコーのままだった。子ネコーの魔法練習に付き合ってやろうと、自分で乾かさずに待っていたのだ。とはいっても、本番(カザン)前の練習台という使われ方は、面白くなくて、声には割合本気の不満が込められていた。

 カザンへのドライヤー魔法を成功させることで頭がいっぱいの子ネコーは、長老の不満など気にすることなく歌い始める。


「ちょーろいいかじぇ、きもちのいいかじぇ♪ ちょーろーの、ぺしょぺしょぺっとりなかららを、シャラシャラッ、ふわふわっ♪ しゃら~ん♪ にゃーん♪ にゃっ・にゃっ・にゃっ♪」


 長老に向かって突き出した両手を、右へ左へと動かすにゃんごろー。

 お歌の通りの気持ちのいい風に包まれて、ぺっしょり濡れネコーは、白くて長い毛並みがサラサラと麗しいふわもふネコーに生まれ変わる。

 どうやら子ネコーは、ドライヤー魔法を完全にものにしたようだ。


「ろう? ちょーろー?」

「うむ。完璧じゃ。じゃがな、にゃんごろー。ひとに魔法を使う時は、勝手にやってはいかん。ちゃんと、お伺いをかけて、いいよと言ってもらえてからじゃぞ」

「はっ! ご、ごめんにゃしゃい。ちょーろらから、いいかにゃとおみょって……」

「親しき中にも礼儀あり、じゃぞ?」

「にゃ……。ちゅぎは、きをちゅける……」

「うむ。まあ、魔法の方は、合格じゃ。これからは、ひとりで体を乾かせるの。成長したの、にゃんごろー」

「…………! うん!」


 得意げに胸を反らす子ネコーに、長老の教育的指導が入った。身内だからと礼儀をおろそかにしたことを指摘され、しょんぼり項垂れるにゃんごろー。しっかり反省しているようなので、長老は鞭を仕舞って飴を取り出した。

 成長を認められた子ネコーは、顔を上げて、ぱぁーっと笑いながら頷いた。


「ほれ、あんまり、待たせても悪いじゃろ。早く、カザンの髪を乾かしておやり」

「うん!」


 子ネコーの頭をポフポフしながら、長老が促した。

 にゃんごろーは両手にぎゅっと力を込めながら、元気に頷く。


 次は、いよいよ。

 本番だ。


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