にゃんごろーとミルゥ。
約一日ぶりの再会だった。
「ただいまぁ! にゃんごろー、会いたかったぁ!」
「おきゃえりにゃしゃーい! ミルゥしゃーん! にゃんごろーも、あいちゃかっちゃぁー!」
ドアを開けるなり、突撃せんばかりの勢いで駆け込むミルゥと、お出迎えをしようとミルゥに駆け寄るにゃんごろー。
ミルゥの勢いに、にゃんごろーが突き飛ばされて吹っ飛ばされるのではと外野は顔を青褪めさせたが心配は無用だった。
ミルゥは、にゃんごろーを抱き上げると、頭上に掲げてクルクルと回りだした。
二人の笑い声がネコー部屋に響き渡りまくる。
感動の大再開だった。
舞台のクライマックスシーンのように二人は再開を喜び合い、大いに盛り上がった。
子ネコーの身に危険はないと分かった観客たちは、ホッとしたり、スンとしたり、シラッとしたり、優しく見守ったりとそれぞれだ。
やがて、主演のふたりも気が済んだのか、クルクルが止まった。
ミルゥは掲げていたにゃんごろーを胸の中に抱きかかえると笑顔で尋ねた。
「見学会、どうだった? 楽しかった?」
「うん! あのね、あのね! にゃんごろーね! こネコーのおちょもだちが、れきちゃっちゃの! にゃんごろー、こネコーのおちょもだち、はじめちぇなんだ!」
「へ、へえ? 子ネコーのお友達が…………?」
「うん!」
にゃんごろーは嬉しそうなお顔で、質問とは違うことを答えた。
キララに出会えたことが、子ネコーのお友達が初めて出来たことが、よほど嬉しかったのだろう。
見学会の感想ではなく、今日一番嬉しかったことを答えてしまったのだ。
答えを聞いたミルゥは、顔を引きつらせた。――――といっても、にゃんごろーが的外れなお答えをしたことを怒っているのではない。ミルゥの静かな怒りは、カザンとクロウに向けられていた。
自分のいないところで、新たな子ネコーが登場したという事実。
にゃんごろーに初めての子ネコー友達が出来た記念イベントに立ち会えなかった現実。
ミルゥを差し置いて、子ネコーたちとの触れ合いを享受しまくったに違いない二人に対する妬みと恨みと憎しみ。そして、激しい怒り。
ミルゥは全身から湧き出てくるすべての感情を、隠すことなく余すことなく、諸悪の根源だと勝手に決めつけた二人へ向けた。叩きつけるように。刺し貫くように。絡めとり絞り上げるように。
カザンは平然としていたが、クロウはウッと身を竦めて、長身のカザンの陰に身を隠した。業火に包まれた無数の氷の矢にロックオンされている気分だった。業火なのに氷とは矛盾しているようだが、それがクロウの素直な感想だった。
幸いにも、クロウたちが焼き尽くされたり氷漬けにされたり、その他諸々にされたりすることはなかった。
にゃんごろーのおかげだ。もちろん、無自覚である。
「あのね、あのね! キラリャって、いうんだよ! ミルゥしゃん、ミルゥしゃん、あっち! にゃんごろー、キラリャのこと、おえきゃきしちゃの! みちぇ、みちぇ!」
「へえ! キララちゃんっていうだ。そっか、そっか。昨日もらったお絵描きセットで、さっそくお絵描きしたんだね! うん、うん。見たい、見たーい!」
にゃんごろーにお絵描きを見て欲しいと強請られて、ミルゥはいそいそとテーブルに向かい、膝の上ににゃんごろーを乗せて座った。
二人への恨みをはらすよりも、愛しのにゃんごろーとの逢瀬を優先したのだ。
今のところは――――。
「あいつに言われたから、休日を一日無駄にして、行きたくもない見学会に参加してやったっていうのに、理不尽じゃねぇ? こっちだって、読みたい本があったってのにさぁ…………」
カザンの背中から這い出てテーブルに戻りながら、クロウはブツブツとぼやいた。だが、その嘆きに耳を傾ける者はいない。
部屋にいる者はみんな(この時は長老も含めて)、「あれはね、しょれはね」と自作の名画をお手々で指しては興奮気味に説明をしてくれる子ネコーの報告に聞き入っていたからだ。
子ネコーの報告会を眺めながら、クロウは一人、ため息を吐いた。
今夜行われるはずの、自らの報告会を思うと、ため息が止まらなかった。
クロウも今夜は、報告会の予定が強制的に入ってた。
本日のにゃんごろーの様子を、逐一ミルゥに報告する義務を勝手に課せられているのだ。当然、キララといる時のにゃんごろーの様子についても聞かれるだろう。
その時には、きっと。
一度は鎮まった嫉妬と怒りの炎が、再び燃え盛るはずだ。さっき以上に激しく。執拗に。そして、理不尽に。
「うぅ。ただの報告会でも、十分すぎるほどだるいってのに…………」
この後、確実に乱れ舞う予定の“灼熱と氷の理不尽”を思い、クロウは深いため息と共にテーブルへと頭を沈めた。