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第182話 本日のおまけ(はずれ編)

 お昼ごはんの後は、不可抗力のお昼寝タイムで。

 お昼寝タイムは、おやつの時間までノンストップで。

 美味しいおやつのその後は、子ネコー画伯のお絵描きタイムが始まった。


 場所は、にゃんごろーたちが寝泊まりしているネコー部屋だ。

 部屋には、見学会のメンバーが勢ぞろいしている。成り行きで見学会に強制参加させられたクロウは、一度自分の部屋に戻ろうとしたのだけれど、ここにいればおやつが食べられると聞いて居残りを決めた。おやつの時間までは、子ネコーと一緒になってお昼寝を堪能し、おやつの後もなんとなく残留する流れになり、今は画伯の名画観賞を楽しんでいる。長老も一緒になって名画に釘付けになっているが、こちらは食べ物関係の絵専門だった。

 マグじーじとカザンの二人は、子ネコー親衛隊として、作品よりもお絵描き中の子ネコー観賞に夢中になっていた。

 その二人の熱視線の先でにゃんごろーは、時には「ふん・ふん・ふふん♪ にゃん・にゃ・にゃん♪」と鼻歌を歌いながら、また時にはプロの絵かき顔負けの集中力を見せつけながら、今日の出来事を画用紙へと映し出していった。

 今日も今日とて、素敵なことがたくさんあった。

 描いても、描いても、描き切れないほどに、素敵なことの連続だった。


 早起きをして、エレベーターまでの小さな大冒険をしたこと。

 朝ごはんのオムレツのこと。

 パンのおかわりを失敗…………ではなく、おかわりの練習をしたこと。

 ミルゥさんをお見送りしたこと。

 卵のお船の見学をしたこと。

 クロウが端っこマスターだったこと。

 魔法の通路での出来事。

 おそろいの会を結成したこと。

 青猫カフェと雲の椅子のこと。

 長老が海賊になって、夕焼けネコーになったこと。

 ニャポリタンと粉チーズの運命的な出会いのこと。

 カザンの粉チーズチャレンジ失敗のこと。

 それから、素敵な出会いのこと。


 美味しいおやつを食べてエネルギーをチャージした子ネコーは、忘れないうちにとばかりに、もりもりと名画を完成させていった。

 子ネコーは精力的にクレヨンを操りまくっていたが、そのお手々がピタリと止まった。画用紙から顔を上げて、ハッと入り口を見つめた後、にゃんごろーは慌ててクレヨンを箱へと戻して立ち上がった。その場で、入り口を気にしながら立ったり座ったりと忙しなく運動を始めた。

 ネコー部屋に向かってくる、誰かの足音が聞こえたのだ。

 速足でドカドカとやってくる足音は、なかなかに騒々しかった。


「ミルゥしゃんかな? ミルゥしゃんかにゃ?」

「んー? どうだろうなー?」

「うむ。おそらくは…………」


 もふもふワクワク、もふもふソワソワと期待のお顔で入り口を見つめるにゃんごろー。

 そのにゃんごろーをクロウがニヤニヤと見下ろし、カザンが推測を口にしようとしたところで、部屋のドアが開いた。

 パッと顔を輝かせるにゃんごろー。だが、現れたのは待ち人ではなかった。


「ただいま、にゃんごろー!」

「今、帰ったよ!」

「ほえ? ニャニャばーばと、トミャりーり? ほえほえほえ?」


 満面の笑みで帰還を告げたのは、ミルゥではなく、仕事でお外へ出かけていたナナばーばとトマじーじだった。にゃんごろーは二人を不思議そうなお顔で見返している。

 ナナばーばとトマじーじがいなかったことに、今気がついたというお顔だ。

 実際、にゃんごろーはたった今、そのことに気がついたのだった。

 早起きをしたせいもあって、にゃんごろーは朝ごはんの後からミルゥのお見送りまでの間、夢の世界へ旅立っていた。ばーばたちがお仕事に出かけたのは、にゃんごろーがスヤスヤしている間のことだった。当然、お見送りもしていない。そして、目が覚めてからは、ミルゥのお見送りから始まって怒涛のイベント続きだったため、今の今まで二人がいなかったことに気づいていなかったのだ。

 にゃんごろーの様子から、なんとなーく事情を察した帰還者二人は、ゴーンと大ショックを受けてへたり込んだ。

 そのまま風化してサラサラと崩れ落ちてしまうのではないかと思われたが、そうはならなかった。

 二人を奈落の底へ突き落したのもにゃんごろーなら、二人の魂を掬い上げて救ったのもまたにゃんごろーなのだ。

 ちなみにどちらも無自覚だ。


「ふたりちょも、どこにいちゃの? かくれんぼしちぇたの? にゃんごろー、じぇんじぇん、わからにゃかっちゃ! しゅごいねぇ。ふたりちょも、かくれりゅのが、おじょーじゅにゃんらねぇ! はっ! ふちゃりは、もしかしちぇ、かくれんぼマシュチャーらっちゃの!?」


 にゃんごろーは、二人がずっとかくれんぼをしていたのだと勘違いをしたようだ。

 そして、二人のことを、かくれんぼがお上手なかくれんぼマスターだと褒め称え、ポムポムとお手々を叩き出したのだ。

 不在を寂しがられるどころか、不在を気づかれてもいなかったことは、帰還者二人に大いなる衝撃と悲しみをもたらしたが、それはそれとして。愛しの子ネコーに手放しで褒められて悪い気はしない。というより、素直に嬉しい。ただただ嬉しい。

 二人は、あっさりと立ち直ってデレデレと相好を崩し、「いやぁ」、「それほどでもぉ」と舞い上がったが、すぐさま地に叩き落された。


「にゃーんごろーお!」

「ふわぁ! ミルゥしゃーん!」


 廊下の向こうから近づいて来る叫び声に、にゃんごろーの全意識は持って行かれてしまったからだ。もはや、二人のことなど眼中にない。


 にゃんごろーの待ち人、トマトの女神様のご帰還だった。


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