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第193話 ご招待しちゃいます!

 キラキラキラッとした何かを巻き散らかしながら、女神様は弾けるような笑顔を振りまいた。注目を集めるために元気よく上げた片手を、頭上でグルングルンに回している。


「ハイハイ、ハーイ! まだ予定発表の途中だけどー! ここでー、わたしからもー! 大事なお知らせがありまーす!」


 「むぐぐ」と睨み合っていた森の長老ネコーと子ネコーは、まったく同じタイミングで、仲良くお顔を女神キララに向けた。

 キララは森のネコー組に背を向けていたが、「にゃいにゃい」とうるさい言い争いが止まったため、ターゲットの気をうまく引けたことに気づいて、ニヤリと笑った。

 司会進行役のマグじーじは、「女神様~!」と縋りつかんばかりの顔でキララを見下ろしていたが、ニヤリを送られて、慌てて取り繕うように咳ばらいをした。もちろん、せっかくの助け舟を無にするつもりはない。


「うぅ、うぉっほん! それでは、途中ではあるが、先にキララちゃんからのお知らせを発表してもらおうかの!」

「ハーイ! それでは、発表しまーす! じゃじゃーん! なんとー、お船説明のお手伝いをがんばったー、にゃんごろーにー、プレゼントがありまーす! 今度―、うちのお昼ごはんにー、ご招待しちゃいまーす!」


 キララは焦らしたりせず、弾む口調で最後まで一気に言い切った。普段のキララならば、少しもったいぶってから肝心の部分をご披露するところだったが、今回は森のネコー組のケンカを仲裁するのが目的だったため、ふたりの意識がキララに向いている内に一気に駆け抜けることにしたのだ。

 作戦は、成功したのも同然だった。

 子ネコーだけじゃなく、長老ネコーの方も見事な食いつきを見せたからだ。


「え、ええええええええ! い、いいにょ!? キララたちのおうちへ、ごしょうちゃい!? おひるぎょはんの、ごしょうちゃい…………!? ふ、ふわわわわ! しゅごい! しゅちぇき! うれしぃいいいいいい! ありあちょー!」

「な、なんじゃと? ちょ、長老は? にゃんごろーだけなのか? 長老は? 長老は? 長老は!?」


 子ネコーの方は、ほっぺに両手を当てて頭を揺らしながら、お尻をフリフリ。尻尾もフリフリ。全身で喜びを表している。

 長老は、キララに向かって「にょにょっ」と両手を突き出しながら、白くて長い毛に覆われた全身をもふもふユサユサと蠢かし、全身で「ご招待希望」をアピールしていた。遠目には、子ネコーに襲い掛かる怪しい生き物のようにも見える。

 けれど、怖くはない。むしろ、ユーモラスと言えた。

 怖がりのキラリも、姉ネコーにしがみついてはいたが、特に怖がってはいない。むしろ、駄々をこねる赤ちゃんネコーを見るような優しい眼差しをチラチラと背後へ注いでいる。

 キララは後ろを振り返り、にゃんごろーに「もっちろーん!」とウインクを送ってから、にじり寄る長老へ、ニヤリ味の深い笑みを向けた。


「キラキラ魔法雑貨店のランチ会へ招待するのはー、お仕事やお手伝いをがんばった人とネコーだけでーす!」

「にゃんと!?」


 キララの作戦に、長老は前のめりで引っかかった。

 キララがネコーの悪い笑みを浮かべながらランチ会への招待資格について説明すると、長老は声を発するのと同時に、素早い動きでマグじーじの隣へと滑り出た。

 そして、最初からそこにいたようなお顔で、打ち合わせ通りのことをしていると言わんばかりに見学会午後の部の説明を淀みなく始める。

 現金な長老の長老ぶりに、マグじーじは呆れた顔をした。出番を奪われて、内心はすごくがっかりしていたが、子ネコーたちの手前、顔には出さない。何でもない顔を取り繕いながら不貞腐れるマグじーじだったが、すぐに機嫌を治した。

 協力者であり救いの女神でもある子ネコーが「どうだ!」と言わんばかりのお顔でマグじーじを見上げてきたからだ。

 マグじーじが共犯者の笑みでそれに応えると、キララは「にぱっ」と子ネコーらしく笑って、あっさりとマグじーじから興味を失った。他の子ネコーと一緒に、長老のお話に耳を傾ける。

 束の間の”共犯タイム“だったが、マグじーじにはそれで十分だった。というよりも、これ以上共犯タイムが続いたら、顔の筋肉が持ちそうもない。

 キララの視線が逸れると同時に、共犯者の笑みを形作るために働いていた表情筋たちが一斉に仕事を放棄した。

 茹で上がったばかりのタコのように禿頭から蒸気を発しながら、頬の肉がすべてデッキの床に蕩け落ちそうな顔で幸せの絶頂に昇りつめたマグじーじ。監督者として、いたずら長老がおかしなことを言っていないか目を光らせなければいけないのに、立場も役目も今日の予定もすっかり忘れて、遠いどこかへ旅立っている。


 そして、コンテナの後ろには。

 心が天国へと旅立ってしまっているマグじーじを、本物の天国に送り付けようと画策している者たちがいた。

 不審者たちだ。

 三人の不審者たちは、一人抜け駆けしていい思いをしているマグじーじを葬り去るため、不審者から暗殺者に転職を試みようとして、カザンにすげなく止められた。


「今、事に及んでは、子ネコーたちを泣かせることになるだけですので。決行は、せめて見学会が終わってからにしてください」


 子ネコー親衛隊としての正論を容赦なく突きつけられて、不審者たちは。

 ギリギリのところで、転職を思いとどまった。


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