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第36話 お友達から始めませんか?

 針山マウンテン(あたしが勝手に命名したんだけれど、この度、月見つきみサンによって正式に採用された。とりあえず、あたしたち二人の間で)は、遠くから見ると本当にまばらな針山って感じなんだけれど、近くまで来てみたら、なんていうか、うん。

 思ったよりも、迫力があった。


 巨人さんの針山?


 一本一本の柱は、かなりの太さで、高層ビル並みの高さもある。

 中をくり抜いて、お部屋に出来そう。


 柱の表面には、ところどころ苔が生えているみたいで、それがあちらこちらで、ぼんやりぼやぼや光っている。淡くて仄かな黄緑色の優しい光。

 それが、光ったり消えたりしているのだ。


 月見サンの竹ぼうきに乗せてもらっていなかったら、うっかり見とれてレースをしなくても柱に激突してたかも。


 こうしてみると、竹ぼうきを二人乗りにしてもらったのは、正解だったな。

 運転は月見サン任せなので、安心してよそ見をしていられる。



「クワァアアアアアアアアア!!」


 すっかり観光気分に浸っていたら、頭の上から鳥の鳴き声らしきものが聞こえてきた。

 見上げると、斜め上空に、大きな鳥の姿が見える。

シュッとした感じの、綺麗でカッコいい鳥だった。赤い羽根だけど、尾羽の方に行くにつれて、白っぽくなっている。かなりの大きさで、あたしと月見サンの二人を余裕で背中に乗せられそうだ。

 その鳥さんが、あたしたちの頭の上でグルグルと円を描いて飛んでいる。


 んー。もしかして、あの鳥が、月見サンのお知り合いの鳥型妖魔さんなのかな?

 いいな。

 あたしも、お友達になりたい。

 そして、背中に乗せてほしい。

 あの背中に乗って、一緒に闇底を旅してまわったら、きっと楽しいと思うな。


「マホウ、ショウジョ…………」


 しゃ、しゃべった!?


 しゃ、しゃしゃしゃ喋れるってことは、意思の疎通ができるってことで!

 こ、これは。マジで。

 月見サンのお知り合いでなかったとしても、ぜひ旅のパートナーとして勧誘したい!

 興奮して、月見サンの背中から身を乗り出しかけたら、なんか今ここではふさわしくないと思われる言葉が聞こえてきた。


「イタダキマス…………」


 え?

 イ、イタダキマス?


 大きくぐるんぐるんしていた鳥が、ぴたっと動きを止めと思ったら。

 一気に、急降下―――――――!?!?!?


星空ほしぞらちゃん、しっかり捕まっていて!」

「へ? ………………きゃああああああああああ!?!?」


 ほうきから身を乗り出しかけていたあたしは、月見サンの急旋回についていけず、忠告もむなしく空中へと放り出される。



 え? あ?

 落ちる? 落ちてる?

 あ、あた、あたし。

 落ちてる?

 え? どうしよう? どうしたら?

 あたし、死んじゃうの?

 あ、やだ。

 誰か、つき、はな……。

 みん…………な。


「飛べー! 星空――!!」


 真っ白になっていたら、月見サンの叫び声が聞こえてきた。


 飛べ。星空。

 飛べ。

 飛ぶ…………!


 あ、そうだ。

 そうだった。

 あたし、魔法少女だった。

 あたしは、今、闇底の魔法少女、星空なんだ。

 だから、そう。

 ほうきなんて、なくたって。

 あたしは、飛べる。

 自分で。

 自分で飛べばいいんだよ!



「は、はー。危なかっ…………たぁーーーーー!?」


 落下が止まって、一安心。

 とは、いかなかった。


 赤い鳥型妖魔は、狙いをあたしに定めたようで、それはもう、とんでもなくいい勢いであたし目掛けて突っ込んで来ているのだ。

 鳥型妖魔の向こうに、竹ぼうきであたしたちを追いかけている月見サンの姿が見えた。

 何か、叫んでいる。

 危ないって言っているのかもしれない。

 必殺技を叫んでいるのかもしれない。

 よく聞こえない。

 どっちにしろ、間に合いそうもない感じ。


 だって、もう。

 もう。

 すぐ、そこに。

 すぐ、そこまで。

 目の前まで、もう。


 やだ。

 どうしよう。

 このままじゃ、殺られる。

 殺られちゃう。食べられちゃう。

 いやだ。

 まだ。あたしは。


 あたしは…………。


 グワッと開いた嘴にパクンとやられそうになった瞬間。

 あたしは、叫んだ。

 無我夢中で。

 とにかく、食べられたくない一心で。

 叫んだ。


「ス、スターライトぉーーーーーーーーーー!!!!!」


「グギャァアアアアアアア!!!!」

「うにゃぁあああああああああ!?!?!?」


 突き出した手の中の、何か棒状のものの先から、ぴかっと眩い光が放たれて。

 悲鳴が聞こえてきた。

 鳥型妖魔と。

 そして、月見サンの。


 えーと。

 何が、起こったのか、な……?

 とりあえず、助かった、みたい、ではあるんだけど。


 バサリ、と羽音をたてて、鳥型妖魔は悶えるように身をよじりながら、ゆっくりと地上へ向かって落ちていく。

 羽がところどころ傷んでいるので、眩しかったからとかじゃなくて、何かダメージを与えたみたいだった。


 そして。


 妖魔が落ちていなくなった視界の先には、両目を押さえて悶絶している月見サンの姿があった。


「う、うぅぅぅ。目が、目がシバシバするぅ…………」

「だ、大丈夫ですか!? 月見サン!!」

「だ、大、丈夫。ちょっと、眩しさに目をやられただけ……。しばらくすれば、治る……」


 視界を失ってふらふらしだした竹ぼうきを安定させるために、あたしは急いで竹ぼうきの後部サドルへ戻って、操縦を手伝う。

 それにしても、月見サンに眩しい以外の被害がなくてよかった。


「そ、それよりも、妖魔は……?」

「あ、やっつけられたみたいです。なんか、あの光がダメージを与えていたみたいです。羽が傷んでましたし。で、そのまま、地面に落ちていっちゃいました。完全にやっつけたわけじゃないけれど、しばらくは大丈夫だと思います」


 ちょっと、可哀そうだったかな?

 いや、でも、食べられちゃうとこだったしな。

 しょうがないよね。

 闇底世界は弱肉強食なんだから。


「そっか、よかった。どうなることかと思ったよ」

「すみません、油断してました。綺麗な鳥だったし、お友達になって背中に乗せてもらって、一緒に旅とか出来たらいいなって思って……」

「妖魔は基本的には危険な生き物だから、気を付けてね。特に初めて会う妖魔には、警戒を怠らないこと! 攻撃する呪文の用意とか、こっそりしておいて丁度いいくらいだよ。って、もっと早くに言っておけばよかったね。ごめん、あたしも悪かったよ」

「い、いえ! 月見サンのせいでは。すみません、次はもっと気を付けます」


 ほうきの後ろで反省して項垂れる。

 お話ができる鳥型妖魔とお友達になって、背中に乗せてもらって旅が出来たら素敵だと思ったのにな。

 お友達どころか、イタダキマスされちゃいそうになるとは……。

 うう。闇底は、油断がならない。


「てゆーかさ、星空ちゃん。なんで、シャワーヘッドなんて持ってるの?」

「へ? シャワーヘッド?」

「うん。シャワーヘッド」


 そういえば、右手になんか固いものを握っているな。

 何かを握りしめたまま、月見サンの腰に手をまわしていたようだ。

 一体、何だろうと右手を目の前まで持ってくる。


「…………シャワーヘッドですね」

「シャワーヘッドだよね?」


 しばし、お互いに無言になる。

 あー。これは、もしかして、あれかな?


「その、前にですね」

「うん」

「妖魔を撃退する『スターライト☆シャワー缶』ってアイテムを作ったことがあってですね」

「ふむふむ」

「こう、殺虫剤みたいに、スプレー缶をぷしゅーってすると光のシャワーみたいのが出てきて、妖魔が逃げ出すっていうアイテムだったんですけど」

「うん?」

「それが、なんか、咄嗟だったので、微妙に不発だった、みたいな?」

「………………いや、あれは、不発じゃないでしょ。炸裂してたよね? しかも、光のシャワーなんて生易しいものじゃなくて、閃光弾みたいな激しい光が炸裂してたよね?」

「ご、ごめんなさい」


 あたしは、再び項垂れる。


「とりあえず、スターライト閃光弾は、当分の間、使用禁止ね! 妖魔にも効果あるみたいだけど、こっちにも被害甚大だし。あ、でも仲間とはぐれて一人になっちゃったときは、遠慮なく使っていいからね」

「はい…………」


 もっと、練習しないとなー。

 勢いに任せて、アジトを旅立っちゃったけど、やっぱり無謀だったのかなぁ。

 もう少し、一人でも妖魔と戦えるようになってからのほうがよかったんじゃないかな。

 まあ、そのために、月見サンが付いて来てくれてるのもあるんだけど。

 てゆーか、月見サンが付いて来てくれるって言わなければ、たぶん誰かに止められてたとは思うんだけど。

 でも、あの時は。なんていうか、勢いで。

 勢いで。

 旅立つことが、決まっちゃったんだよなー。


 せめて、もっと特訓しよう!

 特訓!!


 うーん。

 魔法少女の特訓って、響きはスゴイ素敵なんだけどなー。

 具体的に何をすればいいのかが、実はよく分からなかったりする。



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