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第52話 妖魔とツインテール

「あっは! 何のつもりさ?」


 黄色く輝く星型の粒が混じった、白い霧のシャワー。

 いつもなら、これでプシューすれば、妖魔はみんな逃げていくのに。

 華月かげつには。

 全然、なんも、効いてないみたいだった。


 え、ええ!?

 なんで?

 何にもありませんでした、みたいに、全然、平気な顔しているんだけど?


星空ほしぞらさん。よく見てください。華月には効果がないようですけれど、後ろのツインテールには若干とはいえ、効いているみたいです」

「え? あ、ほんとだ……。でも、どうして? あの子は、妖魔じゃないんだよね? スターライト・シャワーは妖魔限定の撃退スプレーのはずなのに……」


 心春ここはるに指摘されて、華月の後ろを見ると、ツインテールが胸を押さえて、苦しそうに顔をゆがめていた。

 でも、なんで?

 あの子は、魔法少女……じゃないにしても、妖魔じゃなくて人間、だよね?

 人間、だと思うんだけどな。思ったんだけどな。ちょっと、怖い子だけど。


「まあ、考えていても仕方ありません。とっとと華月を殲滅して、あの子に直接聞いてみましょう。あの子を殲滅するかどうかは、その後で決めればいいですし」

「…………………」


 こ、心春さん?

 い、いや?

 頼もしい。頼もしくは、あるよ?

 でも、本気で殲滅しちゃうつもりなのかな?

 あの妖魔、ぱっと見人間みたいなのに、殲滅しちゃうのかな?

 ちょっとくらいは、ためらいとか、ないんだろうか?

 うう。人型の妖魔を殲滅するところは見たくないし、出来れば撃退したかった。


 なーんて、ごちゃごちゃやっていたら。

 妖魔御一行様(?)の方にも、動きがあった。

 華月が、鎖を掴んで思い切り引き寄せたのだ。

 アッと小さく悲鳴を上げて、ツインテールがよろけながら2・3歩前に進み、そのまま地面に膝をついてへたり込む。きちんと膝をそろえた、正しい女子のへたり込み方だ。


「おまえ、本当に役に立たないなあ。あの程度の攻撃で、だらしない」

「くっ……。申し訳……ありません…………」


 鎖を右に左に振り回しながらツインテールを罵る華月。

 鎖に振り回されながら、こんなこと本当は言いたくないのに、っていうのがアリアリなツインテール。滅茶苦茶、悔しそう。ギリリって音がしそうな目で華月を睨んでいる。

 一応、謝ってはいるけれど、態度はあまりよろしくない。でも、華月はその辺はあんまり気にしていないみたいだった。それとも、それすら楽しんでいるんだろうか?

 だとしたら。

 あの妖魔。かなり性格悪い。

 感じの悪い妖魔に眉を顰めながら、あたしは。

 ツインテールに対する罪悪感で胸がいっぱいだった。

 だって、今ツインテールがシバキ倒されているのって、あたしのせいだよね? あと。今更気が付いたけど、もしも華月を無事に撃退出来ていたら、あの子は助けられなかったよね……。二人は鎖で繋がれているんだから、華月を撃退したら、当然あの子も一緒に退場することになるし。

 ごめん。そこまで考えてなかった。

 とにかく華月を撃退したい一心で!

 ツインテールもちょっと怖い女の子だけど、だからって、あんな目にあっていいわけない。


「最低ですね。下がっていてください、星空さん。あの下衆は、私が殲滅して見せます」


 一人で頭をぐるぐるさせていると、心春が固い声でそう宣言した。そのまま、あたしを庇うように前に出る。

 …………えーと、心春さん?

 あの人型、妖魔。本当に殲滅しちゃうの? 捕まえるとか、じゃダメ? それに、この人。うっかり間違って、ツインテールまで殲滅しちゃったりしないよね? 手が滑りました、とか言ってさ。ツインテールは、シャワー缶が効いていたし、今は半分妖魔になりかけ? かもしれないけどさ。でも、たぶん。あの子は、元々は人間なんだと思うんだ。あたしたちと同じ、神隠しにあって、闇底に迷い込んじゃった普通の女の子。あたしたちと違うのは、最初に出会ったのが月華つきはなじゃなくて、華月だってってことだけ。そういうこと、なんじゃなかと思う。

 あの鎖から解放したら、もしかしたら元通りの人間に戻れるかもしれない。事情を聞くまでは、殲滅したらいけないと思う。

 分かっているよね? ね?

 いろいろ不安はある。あるんだけど、シャワー缶が効果なくて、打つ手なしのあたしには見守ることしかできない。

 ああー。神様、仏様、月華様! あんまり、えぐいことになりませんように。



 心の中で合掌した手を激しく擦り合わせる。


 この時の、あたしは。


 心春の勝利を、微塵も疑ってはいなかった。


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