目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第157話 星の砂浜と深海魚

 ほんのり白く光る砂浜。

 んーで。

 砂浜は砂浜でも、ただの砂浜じゃなかった。

 闇底風っていうのとも違う。メルヘンな砂浜。

 砂浜の砂は、お星さまの形をしていた。

 それだけじゃない。

 そうめんに混じっっている色つきのヤツくらいの確率で、ピンクとか黄色とか水色の星も混じっているのだ。可愛い。

 …………ん? ちょい待てよ?

 海がないってことは、ここは砂浜じゃなくて、ただの砂場になるのかな?

 いや、でもな。

 なんか、砂の上に、大きな大きな深海魚が、打ち上げられたみたいに横たわっているしな。うん。きっと、昔は海があったんだよ。だから、ここは砂浜。砂浜で決定。

 で、その砂浜の深海魚なんだけど、本当に大きい。

 たぶん、クジラサイズ。

 本物のクジラとか見たことないからよく分からないけど、星空ほしぞらのイメージ的にはクジラサイズ。大体、そんな感じ。

 たぶん、クジラサイズのチョウチンアンコウとか、そんなヤツ。たぶん。

 たぶん、ばっかりだけど、これは仕方がないんだよ。だって、星空、山育ちだから。海の生き物には、あんまり詳しくないんだよ。

 で、そのチョウチンアンコウなんだけど。チョウチンがね、本当に本物の提灯だった。お祭りとかでよく見るヤツ。それが、頭からぴょいッと出てるアホ毛みたいな触角(たぶん、触角だと思う……たぶん)の先で、ユラユラ揺れているのだ。

 つまり、オマツリチョウチンアンコウの妖魔ってことでいいのかな?

 闇の底の、星の砂浜に横たわって、一人静かにお祭り開催中なのかな?

 ちょっと、寂しい感じ。


 うーん。しかし、今さらだけど。

 お空は真っ暗闇なのに、砂浜がほんのり光ってるのって、やっぱり不思議な感じだなぁ。

 空と地面が逆さになったみたいな、この感じ。闇空を飛んでいると、たまに、自分がどこにいるのか分からなくなる時があるよ。

 初めてのお店じゃないのに、外に出たら、自分がどっちから来たのか一瞬分からなくなっちゃうあの感じ。

 方向音痴、あるあるだよね? ね?

 右も左も分からなくなるって言った時は、東西南北ならまだともかくそれはおかしいってみんなに言われたっけ。

 ふっ…………。

 持てる者には、持たざる者の気持ちは分からないんだよ!

 思い出してむきーっとなりながら、両手に掬い上げた星砂を荒々しくずざーっとこぼす。

 あ、貝殻発見。水色だ、可愛い。

 あー。色つきの星砂と貝殻を、いい感じにガラスの小瓶に詰めてお土産に持って帰りたいなー。夜咲花、きっと喜ぶだろうなー。でも、すぐに錬金魔法の素材にされちゃうんだろうなー。喜んでくれるなら、別にそれでも、全然いいけど。

 でも、荷物になっちゃうから、旅が終わって帰るときに寄り道してもらってかなー……なんて、未来に想いを馳せていたら、呆れたような雪白の声が聞こえてきた。


「三人とも。砂遊びはそれくらいにして、そろそろカケラ探索に取り掛かってもらえる? まあ、ここは危険な妖魔は出ないし、月華と星空は好きにしてくれてもいいけれど。ベリーは、カケラサーチだけでもしてもらえると助かるんだけど?」

「あ! ごめんなさい! すっかり観光気分になってたわ。すぐ、サーチするから」

「待ってー! あたしも、探索するよー! 小さいお子様枠扱い、止めてよー!」

「…………分かった」


 慌てて、手を払って立ち上がる。

 あたしと一緒に、ここに着くなり砂遊びを始めてしまったベリーと月華つきはなの二人も、同じように手を払いながら立ち上がっていた。

 ベリーは焦った感じで、月華は残念そうだった。

 もっと、遊びたかったのかな?

 付き合ってあげるべきだろうか?

 いや、でもな。

 うーん……。


 この海のない、オマツリチョウチンアンコウが横たわる星砂浜は、月華たちがルナと出会った場所なのだそうだ。

 砂が星の形をしているって、雪白ゆきしろから予め聞かされていたあたしとベリーは、仄かに光る砂浜とでっかいチョウチンアンコウが見えたとたん、現場に急降下した。

 寝そべっているだけで、襲い掛かったりはしないと聞いていたけれど、さすがにあのサイズの妖魔の近くに行くのは少し怖くて、チョウチンアンコウからは少し離れた場所にね。

 砂浜に降り立ったあたしたちは、まずチョウチンアンコウを遠くから眺めて、それから。

 砂の形が本当に星の形なのか確かめようとしゃがみ込んで、そのまま、砂遊びタイムに突入してしまったのだ。

 やー。すっかり、童心に帰ってしまいました。

 最初に遊びだしたのは、あたしとベリーの二人だったんだけど、羨ましくなったのか、気が付いたら月華も参戦していた。見よう見まねで、砂を掬ったり溢したり、色つきを探したり貝殻探したりしている月華は、あたしよりも年上なのに妹感があって可愛かった。

 で。雪白は監督役として、スズメサイズで月華の頭の上で見守っていてくれたみたいだけど、月下げっかさんはどうしたのかな、と思ったら。

 月下さんは、オマツリチョウチンアンコウのすぐ傍にいた。ぱっくり開いたお口の前に一人で立って、大きなお魚を見上げている。

 さっそく、調査に取り掛かっているのだろうか。

 さすが、闇底魔法少女のお姉さんポジだね!

 やー。にしても。

 ほんのり白く光る砂浜に横たわるお祭り提灯をぶら下げた深海魚と、それを見上げる淡黄色衣装のバレリーナ。そして、バレリーナの傍らの、お洒落可愛い赤い自転車。

 絵になるような、でもよく見ると何かが台無しのような、そんな光景だね。

 ポストカードにしたら、どうなんだろうな。買う人いるのかな。……なんて思っていたら、隣からやる気のない声が聞こえてきた。


「フラワー・サーチライトー……」


 ベリーさんですよ。雪白に催促されて慌てていた割にはやる気のない呪文ですが、まあ、分かります。

 ペンダントの花の形を見たとたん、フラワーな何かが頭を過っちゃったんですよね?

 うん、それは仕方ない。それは、テンション下がるよ。あたしだって、そうなる。絶対になる。むしろ、それが正常。つまり、ベリーは正常だってこと。やる気のない声はその証。星空が保証するよ。うん。

 ベリーの声とともに、ぱあっと、お花のペンダント型カケラ探索器が光った。

 きっと、あのオマツリチョウチンアンコウの中とかじゃないのかなぁ、なんて予想する。


 で、その結果は。

 案の定で、予想外だった。

 たぶん、きっと。

 お腹の真ん中辺り目指して、光線が飛んで行くんじゃないかなー。それか、意表をついて、頭の上で揺れてる提灯とか?


 なーんて、思ってたんだけどね?


 なんと。

 なんと、なんと、なんと。


 花形ペンダントから放たれた光線は、クジラ並みに大きな深海魚の体全体を包み込んだのだ!


 うん? えーと?

 これって、つまり、どういうこと?

 誰か、星空に教えて?


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?