ベリーは、胸元のお花がモチーフの可愛いペンダントに手を添えて、呪文を唱えた。
まるで、魔法少女の変身アイテムみたいなペンダントが七色の光を放つ。ベリーの胸元から発射された七色の光は、割と大き目な沼のど真ん中を貫いていった。
「よりにもよって、そこかー。まあ、あるとしたら、その辺りかなとはおもっていたけど……」
「悲報なのか、朗報なのか……」
「何を言っているの? 朗報に決まっているでしょ! 行くわよ、みんな!」
「分かった」
「いや、ちょっと待ちなさいよ!」
えーと。セリフは上から順に、
うん。あのね。
あの後、結局一回アジトに戻ったんですよ。まあ、まだそんなに遠くまで離れてなかったからね。
出発までに時間がかかった割には、勢いだけで飛び出してきたよね、あたしたち。
カケラ探知機くらいはさ、気づいて用意しておくべきだったよね。
詳しい場所とかまでは分からなくてもさ、そこにカケラがあるのかないのかが分かるだけでも全然違うもんね。ないものを探して、時間を無駄にするのは良くないし。
とゆーわけで。
アジトに帰ると、白い蝶々の聞き込みをしつつ、
いや、可愛い。可愛いよ? 可愛いんだけどさ。
どうしても、しっとり系某魔法少女のお顔がチラついちゃうんだよね……。
というわけで、お花モチーフの可愛いペンダント型カケラ探知機は、ベリーに託すことになった。ベリーは、嫌そうな顔をしつつも、探知係を引き受けてくれた。優しい……と思ったけれど、どうやらあたしに任せて失くされても大変だと思ったかららしい。なんだよ、もー! あたしのポンコツが理由かい!
まあ、フラワーを思わせるペンダントを身に着けずに済んだから許すけど。
ちなみに、白い蝶々の方は、空振りだった。
神隠しにあった時、“地上”で白い蝶々を見た人は、あたしとベリーだけだった。まあ、
とまあ、そんなわけで、白い蝶々のことは、いったん保留扱いとなった。
雪白の考えでは、たぶん穴を通じて“地上”と“闇底”を行ったり来たり出来るタイプの妖魔なのかもってことだった。あたしや、おばあちゃんの友達のみよちゃんは、たまたま蝶々が闇底に戻ろうとした時に、偶然穴の傍を通りかかってしまい、巻き込まれて一緒に闇底に連れてこられてちゃったんじゃないかって。みよちゃんの時に、みよちゃんにだけ蝶々が見えて、おばあちゃんには見えなかったのは、穴の傍にいたみよちゃんだけが魔素の影響を受けてしまったからじゃないかって。それか、みよちゃんがいわゆる霊感少女ってヤツだったからじゃないかって。
この説が正しかった場合、蝶々の妖魔さんにはぜひ、闇底と地上を行ったり来たりするときには、周りに誰もいないことをよく確認してほしいと思う。
右を見て、左を見て、もう一回右を見てから渡ってね!
星空からのお願いでした。
はい。そんな感じで、白い蝶々のことは、ひとまずいいとして。
沼地に戻って来たあたしたちは、さっそく手に入れたばかりのアイテムを使ってみることにした。
カケラ探し、再開ですよ!
「どうやって使うの?」
「なんか、念じろって言われた」
「念じろ……」
「そうね…………。フラワーサーチ❤」
胸に下げたペンダントをいじっているベリーに聞いてみると、ベリーは夜咲花からのざっくりとした取り扱い説明を簡潔に答えてから、少し考えて、アニメに出てくる本物の魔法少女みたいに可愛い声で呪文を唱えた。
いや、あたしたちだって、本物の闇底の魔法少女だけどって、そうじゃなくて!
う、く。ベリーが、普段割と塩なことが多いベリーが、ものすごく甘々で可愛い。
ど、どうしよう!? 本物の魔法少女、きた!
おまけに、おまけに!
これぞ、実写版魔法少女とばかりに、イチゴショートケーキ系魔法少女の胸元のペンダントが七色の光を放ち、虹色光線が発射されちゃったわけだ。
割と大き目な沼の、ど真ん中に向かって。
で、まあ、冒頭へと繋がるわけなのですが。
盛り上がった気分が一瞬で萎えたよ。だって、あたしたち、もう泥遊びが楽しいお年頃じゃないし。
けれど、一人だけ、むしろ燃え上がっちゃった人がいる。
え? いや、月下さん、本気ですか? 本気であの沼の中に突撃する気ですか? なんか、月華もやる気になってますけど、これ、どうしたら? あ、雪白が止めてる。うん、そうだよね。
「どうして、止めるのよ? 泥なら後で魔法を使って洗い流せばいいでしょう!?」
「そういう問題じゃないわよ!」
「じゃあ、どういう問題なのよ!」
あ、ああー。
鳥とバレリーナの言い争いが始まったー。
白と黄色の争いー。
月下さん。月華に泥はねされた時は怒っていたのに、カケラのためとなれば泥だらけも厭わないのはカッコいいんですけど、泥の中にそのまま突撃したら何も見えないんじゃ……。あたしたち、魔法少女なんですから、魔法で泥水をきれいな水に変えるとか、何か方法を考えましょうよ。もっと、華麗に解決しましょうよ。
「どれくらい深いかも分からない、見通しもきかない、妖魔がいる危険性がる場所に、何の策もなく突っ込むなんて、素人のすることじゃないの?」
「うっ……!」
雪花に正論を言われて、月下さんが押し黙った。
妖魔がいる可能性は、あたしも考えてなかったな。でも、月下さんまで、その可能性をスルーしていたなんて。月下さん、ちょっと焦っているのかな?
「ねえ、ここは私に任せてもらえる? 魔法少女らしく、華麗に解決してあげるわ」
「え?」
ちょっと微妙になってしまった場の雰囲気を、ヒロインっぽく打ち破ってくれたのは、ベリーだった。
なんか、余裕の笑みを浮かべていますが、何か考えがあるの?
みんなの視線が、ベリーに向けられる。
ベリーはそれを受け止めるみたいに、主人公的に笑った。
「別に、わざわざ沼の中に入って拾ってくる必要はないんじゃない?」
「え、どういうこと?」
「要は、カケラを発芽させて、花を咲かせればいいわけでしょ?」
「う、うん。そう、だね?」
「じゃあ、こうすればいいじゃない。世界のカケラよ! 二つの世界の亀裂を塞ぐ花となれ!」
ベリーが甘甘可愛い声で叫んで、指をぱちんと鳴らした。
ノ、ノリノリだ。
解決方法が花なのは、やっぱり未だに微妙だけど。これって、これって、もしかして?
ドキドキしながら沼に注目していたら、闇空から赤い雨が降って来た。
カケラの眠る沼の上にだけ。
ベ、ベリーさん?
種まきした後に水やりをするのは分かるけど、ここは元々沼地なわけで。
や、別に水やり代わりに雨を降らせるのはいいのだけれど、色! 色!
これ、完全にブラッディな、なんちゃらじゃん!
…………いや、ここはストロベリーシャワーってことにしておこう。
あれは、血の雨なんかじゃない。イチゴジュースの雨!
もーう、掛け声は可愛いのになー。
なんだか、怪しい雲行きになって来たベリーによる花咲か魔法を、みんな固唾をのんで見守っていた。
血の雨……じゃない、ストロベリーシャワーが降り注ぎ終わると、沼の中央、虹色光線が指示した辺りが、白い光を放った。
シュルシュルと、ものすごい勢いで、茎が沼の上へと伸びていく。
お二階の屋根くらいの高さで、成長は止まった。てっぺんには、大きな、大きな蕾。
蕾は、音もなく開いていった。
幾重にも重なる大きな花びらが、複雑に結ばれたリボンが解けるみたいに、柔らかく広がっていく。
真っ白い花びらの、さきっちょの方にだけストロベリーレッドのグラデーション。長くて柔らかい花びらは、水の中に咲く花のように、ユラユラと揺らめいている。
その花びらを、下から優しい光が照らしだす。
視線を降ろせば、さっきまでどろどろの何にも見通せない沼だったのに、泥水は綺麗に澄み渡っていた。底の方に、いろんな色の透明な石がいっぱい転がっていて、その石が光っているみたいだ。
お水が浄化されたのは、カケラのある沼だけだったので、沼地の中のオアシスって感じだ。
不釣り合いなような気もするけど、これはこれで、闇底っぽくはある。
すっかり見入っていると、ベリーが自慢そうに胸を反らした。
あたしと違って、反らしがいのある胸をしている。
胸元を飾る、生クリームをイメージしたフリルとレースの飾りが、ふるんと揺れた。
ちょっと、羨ましい。
「どうよ? 悪くないでしょ。穴がふさがったかどうかは、私には分からないけど、かなり雰囲気はよくなったわよね」
「そうね。穴がどうなったのかは…………魔女じゃないと、分からないのかもしれないわね。でも、上出来よ」
「ええ。いろんな意味で、よくやったわ。ベリーの思いが反映されているからかしら。あの水底の石の光には、妖魔避けの効果があるみたいね。水の中へ入るのが一番安全ではあるけれど、光が届く範囲にいるだけでもある程度の効果はあると思うわ」
「え! すごい! すごいよ、ベリー!」
みんな、手放しでベリーを褒める。
穴が塞ぎ切っていなかったとしても、妖魔に襲われない安全ポイントがあるだけでも違うと思うし!
あんまり強くない魔法少女としても、ここなら絶対に安全って言う場所があるのはありがたいし、心強い。
水の中まで入らないといけないのがアレだけど、まあ、元が沼だったしね。しょうがないよね。中まで入らなくても、一応効果はあるみたいだしね。
うんうん!
やー、一時はどうなることかと思ったけれど。
滑り出し順調! かもしれない!
よーし! 次も頑張るぞー!
………………………………。
つ、次は、頑張るぞ!!