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第155話 ポンコツロボ・ホシゾラ

「それで、雪白ゆきしろ。体は妖魔にされてしまったとはいえ、月華つきはなの使い魔となったからには、あなただって魔法少女といえないことはないわよね? 変身してみるつもりはないの?」

「変身ねぇ……」


 あたしが聞いてもいいものかどうか迷っていたら、月下げっかさんがズバッと聞いてくれた。

 あー。体の方は、やっぱり妖魔にされちゃったんだ。月華が、雪白は妖魔じゃないって言っていたのは、元々は人間の女の子だから、本物の妖魔とは違うっていう意味だったのかな?

 でも、それならそれで、雪白が変身しない理由は気になる。首を捻って、二人乗り竹ぼうき後部座席にいる月華の肩に止まっている雪白を見たら、雪白は。

 チラッと月華の顔を見上げながら、なんか、こう。言葉を濁した、感じ?

 んん? なんで、そこで月華を見るのかな?


「まあ、この白い鳥の姿は気にいっているし、これはこれで便利だしね。また、そのうち考えてみるわ。それよりも、白兎妖魔の赤いジュースについての注意喚起も終わったことだし、本題に戻りましょ」

「…………そうね。分かったわ。そうしましょう」


 ん? あれ? 

 なんだろ? 話したくないこと、なのかな?

 気にはなるけど、本人が話したくないなら、無理に聞いたらいけないよね。

 それに、月下さんも雪白の様子が少し変なことに気が付いているみたいだし。あとで、月下さん一人で無修正バージョンの馴れ初め話を聞くときに、詳しく聞いてみるつもりなのかもしれない。で、きっといろいろフォローをしてくれることだろう。

 それなら、それでよし!

 月下さんにお任せするとしよう!


 えー、で。

 それで、本題って何だったっけな?

 ………………あ! 思い出した。

 神隠し! カケラ!

 カケラを見つけて地面に蒔いたら、闇底と“地上”を繋ぐ穴がふさがるかも作戦!

 穴がふさがったら、神隠し組の闇底遭難はなくなるはず! なのだ!

 うん、大丈夫。覚えてる、覚えてる。

 そのための旅だもんね!

 ふー。あぶない。

 えー、で。カケラは見つかったのかな?


「空振り」

「私も」

「同じく」


 沼地がお花畑に変わるところを想像してわくわくして調査結果発表を待つあたしでしたが、結果はなんだか残念な感じのようでした。

 空振りかー。


「あぜ道の方では、カケラは見つからなかったし、他に怪しい場所も見つからなかったわ」

「枯れ木の方も、カケラはなし。至ってクリーンね。木のうろは異界に通じていると言われているから、ここが一番怪しいと思ったのだけれど。魔素が乱れていたり、おかしな気配を感じるところはなかったわね。そもそも、人が通れそうな大きさのうろは見つからなかったし。ベリー、沼の方はどうだった?」

「カケラについては、沼の中まで調べたわけじゃないから、何とも言えないかな。夜咲花よるさくはなに、カケラ探査機とか作ってもらわないとダメなんじゃない? 今さらだけど。それ以外では、私は、二人と違って術者ってわけじゃないから、魔素の乱れとかは分からないんだけれど。でも、上から見た限りでは、変わった妖魔もいなかったし、水の色が違ったり、水が光ってたり、渦を巻いていたりしたところもなかったわね。あと、それと……。関係ないかもしれないけれど、光る蝶々を見た気がするのよね。ほんの一瞬、ひらっとしたのが見えただけで、すぐに見えなくなってしまったから、見間違いかもしれないけれど、でも……ううん、やっぱり、気のせいかも……」


 あー、沼の中は、そりゃそうだよね。カケラ探査機か。そんなの作れるなら、一度戻って、作ってもらった方がよくない? もし妖魔がカケラを食べちゃってから、別の場所に移動してたら、もうここにはないわけでしょ? せめて、近くにあるのかないのかだけでも分かったほうがいいよね……。

 なんか、何も見つからなかったみたいだし、この報告会が終わったら、一度アジトに戻る案を提案してみようかなー……ん? ベリー、最後の方で、なんて言った?

 …………光る蝶々って、言った?

 あれ? それ、あたし、なんか聞き覚えがある、よね?

 白くて光る蝶々の話。小さい頃、おばあちゃんから何度も聞かされた話。あたしがすっかり忘れちゃってた話。

 その、白くて光る蝶々を、あたしは、あたしは……。


「ね、ねえ、ベリー? 今、光る蝶々って言ったよね? それって、白い蝶々だった?」

「…………! そう、白い蝶々が光ってたの! ねえ、星空ほしぞらも、見たの?」


 うわ! や、やや、やっぱりぃ!

 つ、伝えなきゃ! みんなに、伝えなきゃ!

 これ、絶対、重要なヤツ!

 ポンコツなあたしは、押し寄せてきた記憶の渦に流されまくりで、ベリーがらしく無く歯切れが悪い話し方をしていることに気づかなかった。


「………………う、うううう、うん。し、知って、知ってるよ。星空、知ってる。白いちょーちょ、おばあちゃんが、み、みみみ、みよちゃんが! 神隠し! あたしも、見た! 忘れてて、でもでもでも、犯人! つまり、蝶々が犯人!」


 ああー。早く、みんなに伝えなきゃ、なのにー!

 しかもこれ、調査の前に伝えとかなきゃな話だったのにー!

 うまく、しゃべれないよー! 焦って、口が回らないー!

 我ながら、ほんとにポンコツ!

 壊れたポンコツロボみたいになってるよー!


「えーと、まずは落ち着いて? 星空は、白い蝶を見たことがあるのね?」


 見かねたらしき月下さんに聞かれて、あたしはブンブンと激しく頷く。

 その調子で、答えやすい質問形式でうまいこと聞き出してやってください

 お任せします。

 だって、たぶん、その方が早い!


「闇底に迷い込んだ時に、この沼で見たの?」

「ううん、ここじゃなっくって、地上! 地上にいた時に見た!」

「みよちゃんっていうのは、誰? 星空のお友達?」

「み、みみみ、みよちゃんは、みよちゃんは、おばあちゃんのお友達……。おばあちゃんが子供の頃、まだ昭和の頃、神隠しにあっていなくなっちゃった、おばあちゃんの友達!」

「……………………………もしかして、みよちゃんもいなくなる前に、光る白い蝶々を見たってこと? で、星空は、その話をおばあちゃんから聞かされていたにもかかわらず、すっかり忘れて、みよちゃんと同じように神隠しに会い、そのまま、今の今まですっかり忘れていたと、そういうこと?」

「…………………!」


 あたしと月下さんの、介護みたいなやり取りを、うまいことまとめてくれたのは、ベリーだった。うん、それ、正解! まったく、その通り!

 あたしの代わりに、あたしの言いたかったことを言ってくれて、ありがとうございます。

 でも、なんか。余計なところまで、行ってくれちゃってる気もするんですけど? そんなことまで言わなくてもいいんじゃないかなー、ってところまで言っちゃって気もするんですけど? 

 うう、でも。その通りには間違いないので、ここは無言で頷くしかないな。

 壊れたポンコツ頷き専用ロボットとして、コクコクしているしかないな。


「そ、そういうこと、なのね。う、うーん。この沼地の調査が決まった時点で思い出してくれていてもいいような気もするけれど、まあ、星空ですもんね。仕方がないわよね」

「ポンコツなんだもの。仕方がないわよ」

「星空だから、仕方がないということか?」

「「まあ、そういうことね」」


 う、うわーん!

 月下さん、雪白に続いて、つ、月華にまで、あんなこと言われてるし!

 しかも、月下さん・雪白コンビってば、ハモリお返事で追い打ちをかけてくるし!

 涙目になっていたら、ベリーが控えめに挙手をした。

 みんながベリーに目を向けると、ベリーは挙手が控えめだったわりに遠慮なく鋭い発言をあたしに浴びせてきた。


「ねえ? 聞いて? 私も、この世界に来る直前に白い蝶々を見たの。授業中で、ちょうど眠くなってきた時だったから、夢だったのかもって思ってたんだけど、星空の話を聞く限り、夢じゃなくて本当にいた可能性が高いっていうか、白い蝶々は神隠しに関係しているんじゃないかっていうか、私、この話、星空にはしたと思うんだけど、どうしてその時に思い出さなかったのよ? まあ、あの時は華月かげつのことも解決していなかったし、それどころじゃなかったとは思うけれど、あの時に思い出して教えてくれていたら、みんなで集まって話し合いをしている時に、白い蝶々のことを話題に出来たのに。他にも、神隠しの直前に、白い蝶々を見た人がいないか、聞けたのに。私も、あれは夢じゃなかったって確証が持てたのに。そうしたら、さっきだって、見つけてすぐにみんなを呼べたのに……」

「ベリー。星空だから仕方がない」

「そうねぇ。この沼地にいる間に思い出せただけでも、星空にしては上出来じゃないかしら?」


 そんなに一気に言わないでぇ!

 しかも、月華にフォローされてるしぃ!

 おまけに、それ。あたしがいつも月華に思ってやつぅ!

 その上、雪白のフォローのフリした追撃ぃ!

 月下さんは、あたしのことは見放して、形のいい顎に人差し指を当てたお決まりのポーズで白い蝶々のことを考え出してるみたいだしぃ。これ、地味に傷つくぅ。


 ――――とはいえ。とはいえ!

 これは、明らかにあたしが悪い!


 うう。ごめんなさーい。


 あたしは、竹ぼうきから降りて、空中土下座でみんなにお詫びをした。

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