「モザイクありバージョンは、さっくり終わらせるわ」
宣言通りに、本当にさっくりと話を終わらせた。
「アタシもね、
「………………ちょっと、さっくりとしすぎじゃないかしら? 月華よりはましだけど、少し毛が生えたくらいじゃない? 随分と質の悪い妖魔だったみたいだけれど、ちゃんと仕留められたの?」
「いいえ、仕留め損ねたままよ。そうね、既に殲滅済みならともかく、そうでないなら、そこは伝えておかなきゃいけない重要な情報よね。
「ちょっと、待ってよー! いくらあたしでも、怪しい妖魔に勧められたジュースを飲んだりしなよー!」
真面目に話が進められていると思ったら、またしても星空オチにされて、あたしは両手をむきーっと振り上げる。
そんな、知らないおじさんにお菓子あげるって言われてもついて行っちゃいけないよ、みたいなこと、改めて言われたくても、星空だって分かってるよ!
もしかして、あたし。そんなちっちゃい子と同レベルだと思われてるの?
雪白ってば、今さ。場を和ませるとかじゃなくて、結構マジで言っていたっぽいよね?
と思ったら、案の定。
追い打ち、来たー!
「いいえ、アンタならやりかねないわ」
「え、ええー?」
「なぜなら……」
「なぜなら?」
雪白は、月華の肩から飛び立って、空飛ぶ竹ぼうきの前側の柄にとまって、あたしを見上げてきた。ちなみに、スズメさんサイズ。
え? 何?
そんなに、向き合って言わなきゃいけないようなことなの?
あたしだけ狙い撃ちで?
何を言われるのかと身構えているあたしに、雪白は厳かに言った。
「なぜなら、その妖魔は、見た目だけはすっごく可愛いからよ」
「え? すっごく可愛い妖魔に、ジュースをおススメされるの?」
「そうよ」
「な、なるほど! そ、それは、そうと知っていても抗えないかも! だって、可愛いは正義だもん! 女子にとって可愛いは正義だもん!」
「ほら、見なさい!」
お、怒られたー!
そして、ベリーと
確かに二人は、見た目の可愛さには騙されなさそうー!
はい。狙い撃ちされたわけは分かりました。
「で、どういう見た目なの?」
「直立歩行できる白兎の妖魔で、言葉も喋れるわ」
「う、うさぎさんかー」
「つぶらな瞳で見上げられてね。元気になるジュースだよって言って、モフモフの真っ白い両手でジュースの入ったグラスとか差し出されたら、どうよ?」
「間違いなく! 飲んだら危険なヤツって知ってても、そんなの一瞬で頭から吹き飛んで、美味しくいただいちゃうと思います! 自信、あります!」
「ほら、見なさい!」
「で、もしも、それを魔法少女が飲まされた場合、どうなるの?」
ベリーの的確な質問から始まって、変な盛り上がり方をしてしまった、あたしと雪白のヒートアップ系のやり取りは、ベリーの冷静な質問で幕を閉じる。
すみません。悪乗り……したわけじゃないんだけど、すみません。
可愛い白うさぎさんの妖魔を想像して、高ぶってしまいました。
反省します。
反省したのはあたしだけではなかったみたいで、雪白が気まずそうにコホンと咳ばらいしてから、ベリーの質問に答える。
「たぶん、大丈…………いえ、待って。月華と契約さえしていれば、大丈夫だと思い込んでいたけれど。よく考えてみれば、何とも言えないわね。あの時にアタシが飲まされたのと同じものを、今も使っているとは限らないし。もしも、あの時よりも、もっと強力な妖魔の血を手に入れているとしたら、違う結果になるかもしれない……。それに、ただ血を混ぜているだけとは限らないわよね。夜咲花の錬金魔法みたいな感じで、何か手を加えているのだとしたら……。魔法少女すら妖魔に変えられるように、手を加えているとしたら……どうなるか、分からない…………」
「これ、アジトのみんなにも、念のために伝えておいた方がいいわね。後で、
「ええ、ありがとう。お願いね……」
「雪白、たぶん、大丈夫だと思うわよ」
「え?」
どうしたんだろう。
ベリーの質問にさらっと大丈夫って言いかけた雪白は、最後まで言い切る前に何かに気づいちゃったみたいで。考えをまとめるみたいに喋っていたと思ったら、急にしおしおに萎れてしまって。反省というよりは、深く後悔しているって感じになって。
どうしたんだろう、って心配してたら、月下さんが「大丈夫」って言って。
月下さんの「大丈夫」の後の「え?」は、雪白の「え?」だったんだけど、星空的にも「え?」って感じです。雪白が萎れたあたりからもうすでに「え? 何が?」って感じなんだけど。
どういうこと?
雪白と月下さんのどっちを見たらいいのか分からなくなっていたら、月下さんは雪白には答えずに、なぜか月華に話しかけた。
「月華。あなたと契約した子たちの中で、新たな血を与えられた子はいるの?」
「いや、いない」
「ああ! そうか、そうね。使い魔に、新たに妖魔の血を与えられたとしたら、主人であるはずの月華が気づかないわけがないのよね」
「そういうことね。まあ、私同様、贄として落とされた術者には、別の術者の使い魔になるのが嫌で断った子もいるかもしれないけれど。そういう子たちは、ある程度、腕に覚えがあるのでしょうし、見た目の可愛さだけで妖魔を信じたりはしないんじゃないかしら。普通は、むしろ、疑うわよね」
「そう、そうね。そうよね。それ以前に、アタシと月華が一緒に行動するようになってから出会った子で契約をしてないのは、
月下さんとの会話で、雪白は落ち着きを取り戻したみたいだった。
それは、いいことなんだけど。
え、えーと、つまり?
「つまり、雪白は、自分がこのことを誰にも伝えなかったせいで、白兎妖魔のジュースで妖魔にされちゃった子がいるんじゃないかって、心配してたのよ。もしそうなら、自分がもっと早くに、そのことを伝えていたら、助かったかもしれないんじゃないかって」
「あ!」
「まあ、月華に会う前に問題のウサギ妖魔に出会っちゃった子がいたとしたら、もしかしたらの子もいるのかもしれないけれど。それは、雪白が情報を共有していたとしても、防ぎようのないことだしね……」
「うん……。そういう子がいたとしたら、悲しいことだけど。でも、それは雪白のせいじゃない。そのウサギ妖魔のせいだよ……」
一人分かっていないあたしを見かねたベリーが、あたしの隣まで飛んできて、こっそり耳打ちしてくれた。おかげで、ようやく分かったよ。
いや、全然こっそりじゃないけど、話の内容はこっそりされた。
うん、でも。そういうことか。
血がどうのこうのっていうのは、どうして何がそうなのか、さっぱり分からんだけど、そっちは星空的にはどうでもいいや。
そっちは、どうでもよくて。過去と向き合えなかったせいで……って言うのは、そういうことか。
いや、でも、そんなの。無理もないよ。雪白は、平気そうに振舞っているけど、でも、そんなわけないもん。雪白にとって、思い出したくないくらいに、辛い過去だったってことだよね。でも、そうは言っても、そのせいで、犠牲になった子がいたとしたら、やっぱり辛い。
あの時、危険な白うさぎのジュースのことを教えていたらって、ずっと後悔することになっちゃう。
よかった。二人の話だと、雪白が黙っていたせいで犠牲になった子はいなかったみたいだし。
本当によかった。
雪白がこれ以上、辛い思いをしなくて、本当によかった。
あたしは、必死に涙を堪えた。
堪えながら、改めてふと思い浮かんだことがある。
雪白は、どうして妖魔の姿のままなんだろう?
月華は確か、雪白が妖魔にされかけていたから契約したって言っていたと思う。
されかけていたってことは、まだ妖魔にはなっていなかったというわけで。
でも、今の雪白の姿は、どう見ても鳥妖魔なわけで。
これって、一体、どういうこと?
例によって例のごとく、月華の言葉が足りなかっただけ?
それとも、こういう姿の魔法少女に変身しているのよ、とか?
もしくは、マスコットキャラとして生きていくことにしたのよ、とか……?
これ、聞いてもいいのかな?
どうしよう。
しょうもない系の理由だったら、話題にして雰囲気を変えてみるっていうのは、アリかなと思うけど。
でも、何か、深刻な理由で、また地雷を踏んじゃったりしたら、怖い。
う。どうしよう。
悩む。