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第153話 前置きはモザイクと共に

 雪白ゆきしろは、パサリと枯れ木から飛び立って、月華つきはなの肩の上に止まった。

 雪白を追って、ぐいーんと回した首が痛い。月華は、あたしが運転する二人乗り空飛ぶ竹ぼうきの後部座席に座っているからね。その位置、ちょっと首が辛いです。

 このままで話を聞いていると本格的に首がつりそうなので、あたしは諦めて、さっきまで雪白がとまっていた枯れ木の方に視線を戻した。

 雪白的には、月華の肩の上の方が落ち着いてお話しできるんだろうな。

 まあ、あたし的にも。

 本当のところをいうと、そっちの方がありがたかったりする。

 だって、なんか。

 ベリーの時以上に、ダークで心にくるお話が始まりそうだし。

 そうなったら、どんなお顔をしていればいいのか、分からないことになりそうだし。

 うう。ごめん、雪白。ごめんなさい。

 そんなつもりじゃなかったとはいえ、あたしがほじくり返したお話なのに。そんなつもりじゃなかっただけに、覚悟が決まってません!


 あたしは、心の中で雪白への『ごめんなさい』を繰り返しながら、落ち着きなく枯れ木の周辺に視線をウロウロさせる。


「そんなに、固くならなくてもいいわよ。まあ、聞いていて楽しい話じゃないのは確かだけれど。でも、まあ、任せなさい。本当は残酷だけど、ソフトにアレンジされている各種童話のように、ちゃんとお子様向けにうまくぼかして話してあげるから。あと、ベリー。アンタは、その、もし聞きたくなければ、ムリに聞かなくてもいいわよ?」

「…………ううん。大丈夫、ちゃんと聞くわ。雪白が構わないのなら、仲間のことは、ちゃんと知っておきたい。…………それに、私ばっかり暗黒歴史を知られてるのは、フェアじゃないしね?」


 は!? しかも、なんか、こっちの方が気遣われている!?

 しかも、ベリーのことまで!?

 そうだよね。ベリーも、あたしたちの仲間になるまでは、長いこと妖魔にひどい目にあわされてきたんだし。妖魔がらみのダークな話とか聞かされたら、その時のことを思い出してつらい気持ちになっちゃうよね?

 あー。気が付かなくて、ごめんね、ベリー!

 でも、あたしは、一度にいろいろ考えられないタイプなんだよー!

 魔法少女になった時に、脳の能力もパワーアップしてくれればよかったのになー……。

 ポンコツな自分の脳みそが恨めしい。

 ベリーは月下げっかさんの傍で、硬い顔をしてふわふわ飛んでいたけれど、雪白のソフトアレンジはされるみたいだけれどダークな過去話を聞く覚悟を決めたみたいだった。最後の軽口を言う時には、硬いながらもニヤリとした笑みまで浮かべてみせた。

 そのベリーが、言い終わると同時に、チラリとあたしを見た。フッと肩から力が抜けたみたいだった。

 そして、ベリーは言った。

 完全に硬さが抜けた、悪い感じのニヤリ顔で。


「それに、ちゃんと話を聞いておかないと、あとで星空がグルグルしだしたときに、フォロー出来ないしね?」

「それも、そうね。その時は、アンタに頼むわ」

「任せて」


 ちょ、ちょっとー!?

 そこで、あたしをダシにしないで!?

 しかも、雪白まで!!

 も、もー!!

 ま、まあ、いいんですけどね?

 あたしのポンコツが役に立ったなら、それはそれで、いいんですけどね?

 ほら、さ。役に立たないポンコツよりは、役に立つポンコツの方がマシだしね?

 ベリーさんってば、さっきまで青白い顔で硬くなっていたのに、すっかり通常モードに戻って、むしろ前向きに話を聞く姿勢を見せているし。

 うん、まあね? 分かる。分かるよ?

 誰かのためって思うとさ、不思議と力が湧いてくることって、あるよね?

 それが、あたしのポンコツフォローのためっていうのが、ちょっとアレだけど。まあ、あたしのポンコツは、そう思うきっかけになっただけで、ベリーは雪白のこともフォローしてあげたいって思ってるんだろうけど。たぶん。きっと。

 そうだよね? ベリーさん?


 うん。まあ、なんにせよ。

 あたしは、役に立つポンコツってことなんだよ。

 ベリーだけじゃなくて、硬くなっていた場の雰囲気もすっかり緩くなったしね。

 いや、緩み過ぎてもいけないんだけど……なんてことは、雪白だって、分かってるよね。


「あ、それから、月下美人げっかびじん。アンタには、後で無修正版も聞かせてあげるわ。アンタには、聞いておいてほしい」

「……そうね、分かったわ。でも、まずは。二人の馴れ初めモザイクバージョンを聞かせてもらいましょうか」


 月下さんに話しかける雪白の声は、ピリッと引き締まっていた。月下さんも、怯まずに真正面からそれを受け止める。

 シリアスな声とか顔とか雰囲気と、淡黄色くてふわふわ可愛いバレリーナコスとお洒落可愛い真っ赤な自転車が不釣り合いで、ちょっと脳がバグるけど。それはともかく。

 二人はやっぱり、あたしよりずっと、お姉さんなんだな。

 む、無修正とか……モ、モザイクとか、サラッと言っちゃうとこなんかも。

 そんな時じゃないって、そういうことじゃないって分かっていても、星空はちょっとだけ恥ずかしい気持ちになった。

 恥ずかしくなってから、すぐに反省した。

 ベリーに話した時と同じことを言っているのに。

 お姉さん二人組の会話は、なんだか少し生々しくて、胸にクる。


 女の子が、妖魔にされちゃった物語。


 これから始まるのは、お子様には無修正では聞かせられないお話なのだ。

 モザイクをかけなければ聞かせられないような、本当にあったお話。


 あたしは、背筋をピンと伸ばして、気を引き締める。


 不謹慎にも。

 本当に不謹慎にも。

 ほんの一瞬。ほんの一瞬だけ。

 雪白が自分の鶏胸の前で、両方の翼を合わせて、いやーんなポーズをしている姿が思い浮かんじゃったことは。

 ブラッディな感じのアレで粉微塵にした上で、闇底深くに埋めておきたいと思います……。


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