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第152話 魔法少女には、なれないの

 懺悔の波にさらわれて、そのままグルグル渦巻アイスキャンディーになるところだったあたくしですが。

 駄菓子になり切る前に、辛うじて復活を遂げました。


 だって、だって!


 一緒の竹ぼうきに乗っている月華つきはなから、浮かれた気配がビンビンに伝わってくるんだもん!

 凍り付いている場合じゃない。

 分かっていない月華の更なるポンコツを食い止めるためにも、ここはあたしが踏ん張らねばならないのだ。

 それに、だって。そもそも、こうなっちゃったのは。

 あたしが、月華にあんな会話を振ってしまったからなわけで。

 ここは。

 ここは、やはり。

 原因であるあたしが、きちんと誠意を見せねばなるまい!


 というわけで。


 あたしは、カ〇ル妖魔の存在を強引に頭の中から追い払い、雪白ゆきしろと同じ高さまで降りていく。そして、竹ぼうきに乗ったままではあるけれど、一応、足を正座っぽく折り曲げて、竹ぼうきの柄の部分に額を擦り付ける勢いで、土下座のポーズをした。


「ごめん、雪白――!! 雪白の過去をほじくり返そうとか、そういうつもりは、本当に全然まったく一切なかったんだよー!! ただ、ちょっと月華とお話して、もっと月華のことを知りたいなって思っただけだったんだけど。それはそれとして、なんか、このような結果になって、大変申し訳ありませんでした!!」

「……………………ああ、なるほど。様子がおかしかったのは、カエル妖魔のせいじゃなくて、月華があんぽんたんだったせいだったわけね……」

「ふ、ふぇ……?」


 誠心誠意というよりは、単にグルグルうずまきをそのままぶつけただけみたいになってしまったあたしの謝罪に対して、雪白の反応は、なんというか思ったよりも落ち着いた感じだった。

 しかも、月華があんぽんたんだったせいにされているし。

 えーと?

 土下座のポーズのまま、顔だけを上げて雪白を見つめる。

 つぶらな瞳が、あたしを見つめ返してきた。

 鳥さんなので、細かい表情とかはよく分からないんだけど、怒ったりとか、傷ついていたりとか、そういう感じでは、なさそう……?


「別に、気にしなくていいわよ。わざわざ話すことでもないけれど、特別、隠していたってわけでもないしね。それに、夜咲花よるさくはな心春ここはるは、知っているし」

「え? そうなの!? あ、でも、そうか……!」

「そ。そういうこと」


 夜咲花と心春は、雪白が本当は人間の女の子だってことを知ってるって聞いて、驚いてはみたものの。すぐに、納得した。

 妖魔を怖がっている夜咲花には、妖魔じゃないから大丈夫だよって安心させるために教えてあげたんだろうな。

 で。心春は。うん。うっかり、殲滅させられちゃわないように……かな…………。

 うーん、でも、そうか。

 極端な妖魔怖がりっ子と、極端な妖魔殲滅派が、雪白のことをスルーしてるのは、月華の使い魔だからなんだろうな、と思っていたんだけれど。

 それだけじゃなくて。そういうこと、だったのか。


「あー。ちなみに、私も知ってた」

「え?」


 雪白の話を聞いて、少し気まずそうに、「はい」って手を上げたのは、ベリーだった。


「私は、雪白本人じゃなくて、夜咲花と心春に教えてもらったんだけど……。たぶん、雪白がその二人に話したのと似たような理由で、二人が私に気を使ってくれたんだと思うけど。その、雪白にはそのことを伝えてなかったし、勝手に聞いて悪かったわ」

「だから、別に構わないってば。うっかり、殲滅とか抹殺とかブラッディな塵にされるよりは、よっぽどいいし」

「………………」


 ベリーが、目を逸らしながら押し黙る。

 そう言えば、そうでした。

 ベリーさんも、妖魔に対して特別な恨みを抱いている派でしたね。

 おまけに、えげつない感じの必殺技をお持ちなんでした。

 もしかして、カ〇ル妖魔相手に、ブラッディな霧に包んで塵にしちゃう感じの、たとえ自分が妖魔じゃなくても見ているだけで背筋が寒くなるような技を披露しちゃったんだろうか?

 そして、それを目撃した雪白は。もしかして、一歩間違ったら、自分もアレの餌食になっちゃう? とか思って、ヒヤヒヤしながら調査をしていたりしたんだろうか……?

 う、うん。

 ベリーが、雪白が女の子だって知ってたってことが、ここで判明したのはかえって良かったのかもしれないね。これから、しばらく一緒に旅をするわけだし。塵にされちゃうかもって、ずっとビクビクしているよりは、ね。うん。

 ベリーは、安全枠!


「全然、気づかなかったわ……。“地上”にいた頃に使役していたお気に入りの使い魔に似ているから、懐かしくなって使い魔にしたとか、そういう理由なのかと思っていたわ」

「うん。大体あっているぞ」

「え? そうなの? 人間の女の子だから、助けてあげて、使い魔にして、一緒に旅をしていたんじゃないの……? ああ、でも、そうね。月華だものね。使い魔にしたら、その力を使って一人で頑張れよ、で終わりにしそうだものね。なるほど。雪白と二人で旅をしていたのは、そういうわけだったのね」

「うむ。そういうことだ」

「それはそれとして、雪白はどうして、鳥妖魔のままでいるの? あなたは月華の使い魔なのだから、魔法少女に変身すれば、人の姿になれるんじゃないの? まさか、気が付いてなかったとかじゃないわよね? その手があったかとか言い出して、白鳥系の魔法少女になるのは、なんだか私とペアっぽいから、出来れば止めてほしいのだけれど」

「アンタねぇ……。心配しなくても、アタシは魔法少女にはならないわよ。ならないっていうか、なれないっていうか、ね」


 うん? お? え? あ?

 えーと、何?

 月下げっかさんと月華の、二人的にはかみ合っているみたいなんだけれど、あたしにはさっぱりな話から、雪白の「魔法少女にはならないから」宣言って、え? 何?

 いや、月下さんが、魔法少女のコスチュームのことを言い出したのは、たぶん、妖魔に妖魔にされた経過とかは、話したくなければ話さなくていいよ的なことなんだろうけれど。ペアっぽいって言うのは、アレだよね? 白鳥の湖のバレリーナ風コスになるんじゃないか的なことだよね? ペアっぽいのを、本気で嫌がっているのかどうかはよく分からんけど、そこはまあ、どうでもよくて。

 月華のあっさり簡単なお返事だけで、月下さんが一人納得していた内容が、あたしにはさっぱりでちょっと気になるんだけれど、そこも、今はまあ置いておいてもいいとして。


 雪白が、魔法少女になれない?


 月華の、使い魔なのに?

 それって、どういうこと?

 もしかして、妖魔に妖魔にされかけたことが、関係してたりする?

 これって、理由を聞いてもいいヤツ?

 いや、それよりも。

 分かってないのは、あたしだけとかいう可能性もあるよ……ね?

 と、思って月下さんとベリーの顔を見てみたけれど。

 二人とも、聞いてもいいのかどうか、躊躇うような顔で雪白を見ている。


「そうね。しばらくは、危険な妖魔は出てこなさそうだしね。いい機会だから、ここで話しておくわ。アタシと月華の馴れ初めってヤツをね」


 躊躇うあたしたちとは裏腹に。

 雪白は、そう言って、ニヤリと笑った……かのような光を、つぶらな鳥さんの目に浮かべた。



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