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第151話 魔法少女とアイスキャンディー

 対妖魔戦闘能力ポンコツで、調査能力もポンコツのあたしは、ついに。

 闇空の上から雪白ゆきしろを見守り隊としても、ポンコツになってしまった……。

 沼地の枯れ木から枯れ木へと飛び移っていく雪白の後を追いかけるだけの簡単なお仕事だというのに。のに。

 いや、追いかけるのは出来ているんだけど。出来ているんだけど。

 一番大事なところが、守れてない…………よね?

 しかも、引き金を引いたのは、あたしの何気ない質問だったりするし!?


 いや、でも! だって、だよ?


 まさか。…………まさか、あんな話を聞かされるとは思ってなかったし!

 う、うう。なんてことない雑談のつもりだったのに。

 相手が月華つきはなだと何が地雷になるか分からないよ…………。

 それにしても。

 鳥妖魔だと思っていた雪白が、本当は人間の女の子だったなんて。

 たぶん、たぶんだけど。悪い妖魔に捕まって妖魔にされかけたところを、月華が使い魔の契約をして助けてあげた……ってことなんだと思うんだけど。

 妖魔にされかけたって、どういうこと?

 そんなこと、あるの?

 それにさ?

 よく分かんないけど、でも。月華と契約して使い魔になったってことは、雪白は魔法少女ってことなんだよね?

 なのに、なんで? なんで鳥妖魔のままなの?

 元の姿には、戻れなかったの?

 月下さんとかは、このことを知っているの?

 一体、どういうことなの?


 ――――とか、とか、とか。


 気になることが次から次へと浮かんできて。

 頭がパンクしそう!

 雪白が次の枯れ木に移ったことに気が付かなくて、何度も月華に背中をツンツンされてしまったよ……。


 そんなこんなで、一人でぐるぐるしている内に、沼地の調査は終了したようです。

 三人……いや、二人と一匹……違う! 三人でいいんだよ!

 え、えと。

 バラバラになって調査をしていた三人が、いつの間にか一か所に集まっていた。沼地からぬかるみに向けて、大きめの枯れ木が顔を出しているっていうか……ええと、乗り出している辺り?

 月下げっかさんとベリーはぬかるみの方にいた。ベリーは足元が汚れないように宙に浮かんでいるけど、月下さんはぬかるみの上に普通に立っている。泥はねとか大丈夫だったんだろうか? まあ、出発の時にまた、ベリーに綺麗にしてもらえばいいんだけど。

 で、雪白は。

 雪白は、ぬかるみに斜めに体を乗り出している枯れ木の天辺に止まっていた。ハトくらいのサイズになっている。

 チラリと上を見上げたベリーにちょいちょいと手招きされて、あたしは覚悟を決めて、雪白の頭上へと降りていく。

 自分が今、どういう顔をしているのか分からない。全身は、緊張で凍りついたみたいにカチコチだった。冷凍庫でカチンコチンな感じ。

 うう。不審がられて、いろいろツッコまれたらどうしよう!?

 月華のうっかりというかポンコツにより暴かれちゃった雪白のデリケートな秘密。

 月華がポンコツだったのはしょうがないとしても、これ以上勝手に広めちゃうわけにはいかないよね?

 こういうのは、しかるべきタイミングで雪白本人からカミングアウトされるべきだよね?

 うん、でも! うまく誤魔化せる自信がないよ!

 かといって、このまま月華と二人でどこか遠くへ飛び去ってしまうわけにもいかないし!

 …………ふっ。心春がいたら、愛の逃避行ですね! 応援します!! とか言われちゃうところだよね。

 はっ! 脳内に心春を起動しておけば、少しは気がまぎれる……?

 いや、駄目だ! これはこれで、落ち着かないよ!


星空ほしぞら。少し聞きたいことがあるの。本当は、先に聞いておくべきだったのだけど、ホラ? ここに到着するまでは、それどころじゃなかったじゃない?」

「それどころじゃなかったのは月下美人げっかびじんだけだったけどね」

「…………着いてからも、それどころじゃなかったし」

「カエル妖魔のせいでね」

「……でも、今もまだそれどころじゃないみたいね? ベリーがそこはかとなく闇を感じる系の魔法でここら辺のカエル妖魔を一掃してくれて、大分声も聞こえなくなったのだけれど」

「心春がいたら、星空さんへの愛を感じます! とかなんとか言いだしそうよね」

「離れていても存在を感じるなんて、脳内でキノコの胞子が育ってるんじゃないかしら?」

「やめてくれる!?」


 早速、月下さんに聞きたいことがあると言われて、ビクッとなったあたしだったけど、どうやら聞きたいのは、あたしの不審行動のことではないみたいだった。

 というか、あたしの不審行動はカエル妖魔のせいだと思われているみたいだね……。

 そのまま、月下さんとベリーの流れるような掛け合いが始まって、少しほっとする。

 いや、沼地を離れてもまだ不審状態が続いていたら、すぐにバレるし。束の間のなんちゃらではあるんだけど。

うん。二人に質問攻めにされて、隠し通せる自信が微塵もない。

 あ! 脳内キノコ胞子について考えていたって言えば、なんとかなる?

 うー、でも。それだって、一時しのぎだよね。

 ああー。頭グルグル、再びー!!


 こんなんで、これから旅を続けられるのかひたすら心配になったけど。

 あたしのグルグルは、目が点になるくらいにあっさりと終止符を打たれた。

 それも――――。

 雪白と月華。

 当事者同士の二人によって。

 何気なく。あっさりと。


「それにしても、随分とご機嫌ね、月華。そんなに、その竹ぼうきが気に入ったの?」

「ああ。なかなか悪くない。でもそれよりも」

「何かあったの?」

「星空に褒められた」


 月下さんとベリーの話に全く入って来ないなと思ったら、雪白は月華の様子が気になっていたらしい。

 グルグルしていたあたしは全然気が付かなかったけれど、どうやら月華はかなりご機嫌のようだった。そう言われてみると、声が弾んでいる。衝撃の、結果的に暴露話になってしまったその後は、もう本当に衝撃すぎて全然月華のことはかまってなかったんだけれど、一人でご機嫌だったらしい。

 竹ぼうき、は、まあいいとして。

 二つ目にあげられた理由に、あたしは凍りつく。

 グルグル渦巻いたまま、凍りつく。

 ま、ままままま、待って、月華!

 そこ、詳しく説明しないでいいからね?

 あああ、駄目だ!

 止めないといけないのに。

 あたしの解凍が間に合わない! 間に合わないよ!


「雪白との馴れ初めを聞かれた」

「馴れ初め?」

「ああ。雪白が妖魔に妖魔にされかかっていたから、契約して使い魔にした話だ。うまく説明できた」


 得意げな月華の声。

 口を「え?」っていう形にして、目を見開いて、雪白を見つめる月下さん。

 ああ、これ。このことを。

 月下さんも、知らなかったんだな……。


 ああ。やっっちゃった。

 やっちゃったよ。

 ごめん、雪白。

 これは、あたしが悪い。

 あたしが悪いよね。

 月華がデリケート問題に関してはキング級にポンコツなのは分かっていたんだもん。

 グルグルする前にまず、月華に内緒の約束的なことをしておくべきだった。

 …………ポンコツ二人の約束だから、結果的に同じことになったかもしれんけど……。

 でも。それでも。一応。

 何かしておくべきだった……。

 自分のポンコツぶりが恨めしい。

 今、雪白は何を思っているんだろう。

 月華に悪気はないとはいえ、こんな風に大事なことをバラされて、ショックを受けないわけ、ないよね?

 そう思うのに、そう思っているのに。

 臆病者のあたしは、怖くて雪白を見ることが出来ない。


 ああ。

 あたしはもう、このまま。


 渦巻グルグルのアイスキャンディーになってしまいたい……。



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