「ねえ。
「どうして?」
闇空の上で、みんなの……てゆーか、主に雪白のことを見守りながら。あたしは、ふと疑問に思って、月華に聞いてみた。
ちなみに。沼地調査隊の一羽と三人は、手分けして沼地を調べて回っている真っ最中です。飛ぶのが得意じゃない
あ、すぐ傍で見守っていないのは、カエル妖魔が怖いあたしが駄々をこねたわけじゃなくて、雪白に邪魔だからって追い払われたからです。
そこは、誤解しないように!
駄々をこねなくてすんでよかったとか、思ってないから!
で。なんで、雪白のストーカーをしているのかって言うと。
雪白はあんまり戦うのが得意じゃないから、すぐ助けられるところで見守りたいって月華が言ったから、なんだよね。
そんなわけで。あたしたちは何かあったらすぐに三日月ブーメランで何とかできそうな距離で、闇空から雪白を見守ることにしたのだ。カエルのプチ合唱が微妙に聞こえてくる高さなのが、うん。ちょっと、微妙だけど。いや、我慢するよ。雪白のためだもんね。
で、で。なんで、そーゆう疑問(二人が相棒になった馴れ初め的なアレだ)が浮かんで来たのかというと。
いや、だってさ。
月華って、妖魔嫌いじゃん?
まあ、雪白の教育により、数が多くて無害な妖魔は、放っておくようになったらしいけど。
でもさ。それを教育したのが、妖魔の雪白っていうのがまたさ。そして、月華が大人しく言うことを聞いているって言うのもさ。ね?
それで、さっきだって。てゆーか、今も引き続きなんだけど。誰に言われたわけでもなく、自主的に雪白を心配して、妖魔から守ってあげようと、空から見守ってるだなんて、さ。
どうして、どうやって、そういうかんけいになったのかが、すごく気になっちゃったのだ。
今や二人は合体まで、しちゃってるんだもんね。
妖魔嫌いが妖魔と合体って、凄いことだよね?
――――と、思っての質問だったんだけど。
質問のお相手、月華さんはというと。
えーと。なんか、不思議そうに質問を質問で返されてしまった。
あれ? 質問の仕方、悪かった?
そんなに難しい質問したつもり、なかったんだけど。
言葉が足りなかっただろうか?
あ、でも。月華って、会話、あんまり得意じゃなさそうだもんね?
ベリーとか、あたしの足りない言葉でも、あたし以上にあたしの聞きたいことを理解して、あたしに分かるように答えてくれるからな。
それに、慣れちゃってたのかも。
うむ。気を付けよう。
質問は、分かりやすく!
はい! じゃあ、もう一度!
「だから、つまり、えっと! 月華って、妖魔が嫌いだよね? なのに、雪白は妖魔なのに、どうして、その、倒したりしないで、一緒に行動するようになったの? こんなに仲良くなったの? 二人の馴れ初めを教えてください!!」
あ、しまった!
力み過ぎて、最後、ちょっと声が大きくなっちゃったかも。
雪白にも聞こえちゃったかな?
うるさいって、怒られちゃうかな?
恐る恐る、下をチラ見する。雪白は、うるさいわねって感じにこっちを見たけれど、またすぐに枯れ木の調査に戻っていった。
ほっ。よかった。
でも、次はないかもしれない。気を付けよう。
雪白は、真面目に調査をしているんだもんね。
邪魔をしたら、いかん。
えー、で。
気になるお返事の方は、どうなんだろう?
今度は、あたしの聞きたいこと、伝わったよね? 結構、具体的に質問できてたよね?
はあ。出来れば、馴れ初めだけじゃなくて、今のいい感じの相棒状態になるまでの話とかも聞きたい。
「雪白が、妖魔……?」
「え? うん? 雪白は、鳥の妖魔だよね?」
「…………」
「…………」
ん? あれ? また、なんか、疑問形で返された?
しかも、確認するように聞いたあたしのセリフに、今度は沈黙が返ってきたんですが?
いや、何? この微妙な沈黙。
な、なんで、そこで考え込むの?
え? 雪白って、妖魔じゃないの?
だって、しゃべる鳥だよ?
しかも、月華と合体までしてるし! 姿だって、鶴とか白鳥サイズになったり、手乗りインコサイズになったり、変身的なこともしてるし!
どう考えても、普通の鳥じゃないよね?
え? それとも、なんか。闇底には、妖魔と彷徨い込んできた人間(元人間も含む)以外の別の生物がいたりするの?
よ、妖精とか。精霊とか?
あ、なんか。それ、素敵かも。
ちょっと、ドキドキしてきた。
よかった。雪白本人に質問しなくて。そうだったら、妖魔と勘違いしていたなんて、失礼だったかもしれないし。
なんて、期待に胸をときめかせていたのに。
「契約したとき、雪白は…………まだ完全な妖魔じゃなかった」
「え?」
答えは、斜め上から辺りから三日月ブーメランのように飛んできた。あたしは驚いて、月華を振り返る。
月華は、あたしではなく、足元の雪白を目で追っているみたいだった。
目線が動いているのに気づいて、下をチラッとすると、雪白が次の枯れ木に降り立ったところだった。慌てて、竹ぼうきの先をそっちに向けて、後を追う。
雪白は、中が空洞になっている枯れ木の上に止まって、ひょいッと覗き込んでいる。
え、えーと?
完全な妖魔って、何? 不完全な妖魔とか、いるの?
しかも、契約って言った?
契約って、アレですか?
自分も月華とした、アレしか思い浮かばんのですけど?
あたしたちが月華としたヤツ。血の契約をして、魔法少女という名の使い魔になるっていうアレのこと?
いや、そんな、まさかね?
あ! もしかして、もしかして。ただの合体契約?
最初はやっぱり、妖魔の雪白を抹殺しようとしてたけど、命と引き換えに翼を与えて進ぜよう、とか言われて、空を飛べるならそれもいいかみたいにオッケーしちゃったとか?
なんか月華っぽくない気もするけど。
あ、でも、ほら。
月華は、女の子の味方だし。
雪白は、妖魔だけど女の子タイプみたいだから(いや妖魔に性別があるのか分からんけど)、まあいっか、的な?
アリ? そんなの、アリ?
ふ、ふふ。どういう、こと、なのかな?
なんか。思っていたのと、違う話になっている、ような?
気のせい?
気のせい、だといいな。
と思ったけど。
「妖魔になりかけていた。だから、契約した」
「…………ふ、ふぇ?」
え? 何? 妖魔って、なるものなの? も、元は何だったの?
なんか、月華。
さらっと何でもないことみたいに、デリケートかつ、とても重要な話をしてない?
しようとしてない?
どうしよう。なんか、聞くのが怖くなってきたんですが。
もしかして、これ。止めた方がいい?
とも、思ったんですが。
月華は、とても一生懸命に説明してくれた。
説明っていうか、小さい子が一生懸命お話してくれてる的な感じで。
「雪白は、元は人間だった。妖魔に妖魔にされかけていたから、契約して、使い魔にした。それが、馴れ初めだ」
「………………あ、うん。あり、がとう。よく分かった、よ……?」
衝撃発言をぶちかましてくれた。
おーいー……?
これ、雪白に断りなく聞いたらダメなヤツだったかもー。
でも、月華はー。チラッとあたしを見て、満足そうに笑ってるぅー。
いい仕事をしたな、的にー。
どうだ、ちゃんと馴れ初めを説明したぞ。的にぃー。
その笑顔が、投げたフリスビーを加えて戻って来た子犬のように得意げだったので、あたしは衝撃にポンコツになりながらも、なんとかお礼の言葉を返す。星空、よくやった。がっかりさせたら、可哀そうだもんね。
あたしの返事を聞いて、嬉しそうに頷いて、また雪白の見守りに戻る月華はなんだかご機嫌で。
とっても可愛い。
可愛いのだけれど、あたしのほうは、もう。
脳みそは衝撃で凍り付いているのに、胸の辺りはほわほわしているというとっても奇妙な感覚で。
ちょっと酔いそう。
雪白は、本当は人間だった…………?
これは、本当に。
あたしが聞いてもいい話だったんだろうか?
いや、月華は何でもないことみたいに、普通にお話してくれたけど。しかも、上手に説明できて満足していたみたいだけど。
それは、月華が月華だからで。
デリケートなこと関係については、あたし以上のポンコツだからであって。
雪白的には、どうなの、これ?
普段の雪白からは、ベリーがたまに醸し出す陰りみたいなものを感じたことは一度もないけれど。
ないけど、でも。
こんなの、興味本位でほじくり返されたくない過去……だよね?
たぶん、これ。
聞かなかったことにした方がいいヤツだよね?
だよね?
何にも聞かなかったことにして、いつも通りにしていた方が、いいヤツだよね?
ね?
うん。分かってる。分かってるけど、でも。
でも、あたし。
たぶん、そんなの無理!
こんなの知っちゃったのに、いつも通り普通に振舞うなんて、出来ないよ!
だって、だって……。
ずっと妖魔だと思っていた雪白が。
雪白が、本当は人間の女の子だったなんて……。
そんなの、そんなの。
あたしは、どうしたらいいの?