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第167話 生霊少女と空飛ぶ花びら

 月下げっかさんは腕組みをして、腕組みの上に乗っかってる方の手だけを持ち上げて人差し指を顎の先にあてる、ちょっといい女っぽいポーズで語り始めた。

 あたしに語りかけつつ、質問をしつつ、自分の考えをまとめている風にも思えた。


「私たちは、今どこにいるのかしら?」

「え? えーと、オマツリチョウチンアンコウさんの胃袋広間? ですかね?」

「そう。ここは、妖魔の体内。それが、どういうことか分かる?」

「え!? どういうことって、どういうことですか?」

「カケラは今、どこにあるのかしら?」

「へ? カケラ?………………あ!」


 あ、あああああー!

 分かった。月下さんが何を言いたいのか、ようやく分かった。

 生霊少女がカケラを握りしめているから、カケラは生霊少女の持ち物だって思っていたけど。でも! それはそうなんだけど、それだけじゃなかった!

 オマツリチョウチンアンコウのお口洞窟へゴーする前、離れたところからカケラサーチをした時の光景が思い浮かぶ。

 あの時、サーチ光線は真っすぐにオマツリチョウチンアンコウの体の真ん中あたりをズビシと貫いていたけど、その後光はオマツリチョウチンアンコウの全身を包み込んでいた。

 つまり、あれって、こういうことだったんだ。


 カケラは、生霊少女の持ち物でもあるけれど、でも。

 その生霊少女は、オマツリチョウチンアンコウの胃の中にいるのだ。

 つまり、つまり。

 カケラは、それを持っている生霊少女ごとオマツリチョウチンアンコウの体の中に取り込まれちゃってるってこと、なんだよね?

 それって、それって、それって!


「それのどこに問題があるんですか?」

星空ほしぞら…………」


 それは分かったけど、そこが分からない。

 つまりはどういうこと?――――てなわけで、『星空分かんない』を発動すると、月下さんが可哀そうなものを見る時のお顔でため息をついた。

 え!?

 ちょ!?

 せめて、呆れた顔とかにしといてくださいよ!?


「考えても見なさい? このサイズの妖魔が、カケラと月華つきはな、両方の力を取り込んで変な風に覚醒して暴走し始めたら、どうなると思うの?」

「は!? あ? ああああ!」


 そ、それは確かに大変だ!

 今は、大人しく眠っているだけみたいだけど、カケラと月華、二つの力が混じり合うことで何かが目覚めて、『今からオレが闇底の天下を取ったるでー!』みたいなことになったら、さすがに月華でも止められないかもしれない!

 いろいろ大参事な予感!


 いや、でも、待って?

 それは、分かるけど、でも。

 そしたら、この子は、このままずっと生霊のままなの?

 あ、そうだ。

 何とか、この子の手からカケラを取り出して、この子の体かカケラのどっちかを、オマツリチョウチンアンコウの体の外に持って行ってから、契約をすればよいのでは?


「この子が、こんな状態じゃなければ妖魔を先に仕留めてから契約をすればいいのだけれど。もしも、死にかけた妖魔の胃の中で、半ば一体化しているような状態だからこそ、仮死状態を保てているのだとしたら、妖魔を仕留めたとたんに、この子の息の根がとまってしまいかねないし。カケラを取り上げて、カケラだけを体外にというのもね。もしも、カケラの力がこの仮死状態に関与しているとしたら、取り上げたとたんに、この子のすべてが終わってしまうかもしれない。悩ましいわね」


 だ、だめだった。

 しかも、月下さんってば、より過激な方法まで考えていらっしゃる。

 妖魔を先に仕留めるとか、ホント、妖魔には容赦ないな。

 えー、でも、じゃあ。

 どうしたらいいの?

 どうにかしたい気持ちはあるのに、その方法が何にも思い浮かばない。


 どうしたらいいの~!?


 心の中で絶叫していたら、しっとりとした声が空から降ってきた。

「案ずるよりも産むがやすし」


 いや、あたしも、月下さんの話を聞く前はそう思っていたけどさ。

 さすがにそういうわけにはいかないんじゃないかって、今は思って……ん?

 今の声。

 もしかして……?


「そこにカケラがあるのなら、やることは一つ」


 声が降ってきた方を見上げると、そこには。

 薄ピンクのでっかい空飛ぶ花びら。

 そして、その上に乗って、優雅に佇むお花系魔法少女。

 え? フラワーさん? 本物?

 いや、なんでここにいるの?

 アジトでお留守番していたはずだよね?

 てゆーか、タイミングは違うけど、フラワーと同じこと考えていたなんて、めっちゃショックなんですけど?


 唖然としたみんなの視線を悠然と受け止めながら、フラワーはヒラリふわりと星砂浜の上に降り立った。

 みんなが身構える。

 仲間のはずなのに、敵よりもやっかいで油断ならなくて手ごわい相手。

 それが、フラワーだからだ。

 取り扱いが分かっている分、百合色キノコロケット心春の方がまだマシかもしれない。


 そこにカケラがあるのなら、とか言いながらも、フラワーは。

 まだポワポワ状態の生霊少女の方に注目しているみたいだった。

 カケラを握る、本体じゃなくて、生霊本体の方。

 生霊本体って言うのも、なんか変だけど。

 な、何するつもりなんだろ?

 さっきの月下さんの話、フラワーはちゃんと聞いていたのかな?

 せ、説明すべき?


「大丈夫。もしもの時は、すべてを花に変えればいい」


 あ。一応、聞いていたっぽい?

 いや、でも、これ。

 あんまり、解決になっていないというか。

 実行したら、むしろ別の大参事が起こりそうなんですけど?

 ど、どうなっちゃうの? これ――――?


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