午前1時ごろになると
「お疲れさまです。寛さん、着きましたよ」
「……ああ」
寛は運転席の
──……ん?
駐車場へ降り立った寛は言い知れない違和感を感じた。その違和感は直観的なもので、もしかすると滞留する空気や湿度の変化を敏感に感じ取っただけかもしれない。
──何かがおかしい……。
見慣れた駐車場に妙な雰囲気を感じる。警備員室から夜間担当の警備員が出てくる気配もない。
「泰斗、今日の警備は
「確かそうですが……
「……いや、大丈夫だ」
寛が答えた瞬間、駐車場の照明が不規則に点滅して消える。非常灯へ切り替わると同時に、けたたましい警報が駐車場全体へと響き渡った。
「ひ、寛さん!!」
泰斗の困惑した声に振り向くと、駐車場の奥、薄暗がりのなかにボンヤリとした影が3体浮かび上がっている。影は
「なんだ? 洋モノが寺で何してんだよ」
寛はコルト・ガバメントを取り出すと泰斗や部下も慌てて
「来るぞ!! 撃てぇッ!!」
寛がコルト・ガバメントを撃つと泰斗たちも一斉射撃を始める。BB弾はバフォメットの頭部や胴体へ命中した。しかし、退魔の効果があるBB弾を被弾しても消滅しない。
「オ゛オ゛オ゛……」
ただ、全く効果がないというわけでもない。バフォメットは頭部に集中砲火を浴びると低い唸り声を上げてその場にしゃがみこんだ。
「バットを使え!!」
寛はそう叫ぶと車へ駆けより、トランクから退魔用バットを取り出して泰斗へ投げ渡す。自分もバットをつかんで足早にバフォメットへ近づいた。
バフォメットは部下たちが放つ
「オ゛オォ……」
2体のバフォメットは身体中からアーク放電に似た光の筋を放って消滅する。寛は残された1体の前で
「勝手に入ってんじゃねぇよ。クズどもが」
寛はバフォメットの頭部へバットを一閃させた。そして、全てが終わると泰斗の方を向く。
「他にはいないか?」
「大丈夫です!! 他には見当たりません!!」
泰斗が周囲を警戒しながら答えると、寛はバットを構えたまま警備員室の扉を開けた。
「……クソが」
目の前には
「寛さ……ウッ!?」
寛に続いて入った泰斗が顔色を変える。
「泰斗、見るな。外に出てろ」
「……ハ、ハイ」
泰斗が外へ出ると寛はスマホを取り出して睡魔にかける。しかし、電波妨害でも行われているのか、発信すらろくにできない。次に固定電話を試してみるが、電話回線も遮断されていた。誰かが
「やってくれるじゃねぇか」
寛は舌打ちをして警備員室を出ると
「泰斗、ついて来い!!」
「ハ、ハイ!!」
「……どうした?」
「い、いえ、なんでも……」
泰斗は初めて見る
「お前ら、落ち着け。日頃の覚悟が試されているぞ」
寛の
「お前らは俺と一緒に来るんだろ?」
「……」
泰斗は語りかける寛の目を見て身震いした。今現在、身の回りで起きていること以上に、寛へ対して恐怖を感じる。寛の目は「頼りにならないなら、お前から先にバットを振り下ろす」と言っていた。
「どうなんだ? 大丈夫か?」
寛は集団が混乱しても動じずに統率する指導者だった。そんな寛を泰斗は心から尊敬している。寛を落胆させることは泰斗にとって何よりもありえないことだった。
「寛さん、大丈夫です。斬り死にする覚悟はできています」
泰斗が目つきを鋭くさせると寛はニヤリと笑う。
「泰斗、その意気だ」
「はい」
泰斗はスーツの上着を脱ぎ棄ててバットを握り直した。部下たちも同様に上着を脱ぎ棄てて
「行くぞ。ついて来い」
寛は泰斗の肩を叩くとエレベーター横の階段へ向かって駆け出した。エレベーターは主電源を自家発電に切り替えて稼働していたが、用心のために階段を使っていた。泰斗たちも寛に続いて階段を駆け上がった。