ここで物語は少し時を
× × ×
「今日は色々と、ありがとうございました」
助手席から降りた春馬は車内へ向かって頭を下げる。すると、
「あ……春馬さん、こちらこそです」
臣はまだ少し眠そうだったが、微笑みながら語りかけてくる。
「これからもよろしくお願いします。いつでも
「はい、わかりました。それじゃあ、失礼します」
「またね、春馬」
「さらばじゃ、春馬」
「うん」
春馬は小さく
いくら小夜が『一緒に勉強している』と両親に説明していても、停学初日に夜遅くまで出かけている。両親が心配しないわけがない。
「「……春馬」」
春馬の姿を見て両親は立ち上がった。
「……た、ただいま」
春馬は投げ捨てるように言うと足早に立ち去ろうとした。学校での暴力事件がきっかけで春馬の嘘はすべて明らかになっている。母は教師から春馬の学校生活を告げられていた。
春馬には友達がいない。
春馬はクラスメイトから慕われていない。
生徒会なんて手伝っていない。
すべての嘘が一連の出来事で両親に露見していた。学校からの帰り道、母に何も言えなかった理由がそこにある。春馬は羞恥心に
「春馬、こっちへ来て座りなさい」
父親が厳しい口調で春馬を呼んだ。
「つ、疲れているからもう休むよ……」
「春馬、いいから来なさい。学校で……」
「う、うるさいな!! 疲れてるって言ってるだろ!!」
春馬は感情的になって叫ぶと自室へ駆けこんでドアの鍵をかけた。階下からは母が「春馬!!」と名前を呼ぶ声がする。
「ほっといてくれよ!!」
春馬はドアを背にして崩れ落ちた。考えてみれば、両親を強く拒絶するのも、自室の鍵を使うのも初めてだった。
「な、なんなんだ……僕は……」
夏実を救う手掛かりを得た高揚感はすでに消えていた。有るのは嘘に
「あああぁぁぁー!!」
春馬は思いきり頭を
──ぼ、僕は悪くないぞ……。
春馬は顔を上げた。
──嘘をつくハメになったのも、暴力を振るったのも、どれもこれも僕のせいじゃない……。
乱れた前髪の合間から覗く春馬の両目は、怯えきった小動物のようにせわしなく動いていた。
──僕は、僕は……。
友達に囲まれ、慕われ、生徒会を手伝い、そして美少女に告白される。そんなデタラメを両親に話しているうちに、春馬自身もそれが『本当の自分』だと思いこむようになっていたのかもしれない。
──僕は何も悪くないぞ……。
今、春馬は初めて現実を突き付けられた。いつ部屋がノックされ、両親の問い
春馬を
──覚醒せよ。
突然、春馬の脳内に凛とした声が響いた。