小夜は
──あまり目立ちたくないけど……仕方ないか。
「小夜さま、どうかお気をつけて」
「莞爾さん、ありがとうございます。行ってきます」
小夜は巨体を屈める莞爾に挨拶して校門をくぐった。
× × ×
『2年B組の
春馬と喧嘩をした3人は普段から評判が悪かった。彼らは内向的な生徒には暴力的で居丈高にふるまい、体育会系やクラスの人気者には媚びへつらう態度を見せていた。みんな口にはしないが心のどこかで自業自得だと思っていた。
当然ながら春馬の評価が上がることはない。むしろ、一見おとなしそうな春馬が暴力を振るったことで、春馬へ対する恐怖と嫌悪が増していた。
「成瀬春馬って、ヤバくない?」
「うん……ちょっとやり過ぎだよね」
「校則違反を注意されて逆ギレしたんでしょ? 学校を辞めてくれないかな……」
暴力を毛嫌いする女子たちは、ことの真相を知らないまま春馬を断罪した。
──何も知らないくせに。
小夜は午前の授業が終わると囁かれる噂話を嫌って教室を離れた。
× × ×
夏の
「……」
画面を見た小夜は綺麗に整った眉をよせた。涼に送ったメッセージが既読になっていない。電話をしてみてもすぐに音声案内へ切り替わる。
「涼……」
小夜は小さくため息をついた。すると、誰もいない空間から声がする。
「何を
「!?」
突然声をかけられ、小夜は驚いてカルピスソーダが気管に入りそうになった。むせながら顔を上げると、踊り場の鉄柵の上に
「ケホケホッ……脅かさないでよ」
「すまぬ、すまぬ。退屈だったのじゃ」
「……
「ふふふ。どうじゃ? すごいじゃろう?」
神出鬼没の神獣は曲芸師のように鉄柵の上を歩いてから、ストンッと小夜の前に飛び降りた。
「それにしても……やはり、『
禍津姫は小夜の隣に腰を下ろすと白い歯をこぼして微笑んだ。
「『媛』という漢字は才色兼備で落ち着いた
「そうですか」
「つれないな……。心配事は『げ~む』のことか? ならば相談に乗るぞ!!」
「そんなんじゃないよ」
「なんじゃ……つまらぬな」
小夜はスマホを覗きこもうとする禍津姫を手で制した。禍津姫が肩を落とすと話題を変える。
「ねえ、媛。昨日の襲撃……何か心当たりがある?」
「わらわにある訳がなかろう。千年以上、鏡の中に封印されておったのじゃぞ」
「そっか。そうだよね……」
「むしろ、原因はそなた達にあるのではないのか?」
「え?」
「そなたら
「……」
「暴力を振るった方が忘れても、振るわれた方は絶対に忘れぬ。それは神や幽鬼とて同じ。人知れず、
「……」
禍津姫の言うことは正論だった。小夜は黙りこんでしまった。
「あまり案ずるな……」
禍津姫は気落ちする小夜を見て急に立ち上がった。
「わらわが
禍津姫は小夜の手を強引に引いて立ち上がらせる。
「『おむらいす』を食べに行こうではないか。昼休みが終わってしまう」
『オムライス』がよほど気に入ったのか、禍津姫は無邪気に笑って学食へ誘う。その笑顔は暗い会話のせいで重くなった空気を軽くした。
「仕方ないな……」
小夜はスカートをほろって階段を