高校での小夜は近よりがたい雰囲気を
残酷なもので、今まで
「
明るく声をかけてきたのは禍津姫のクラスメイト、
「よ、よかったら
香澄は小夜にも恐る恐る声をかけてくる。その態度は、
「わたしは……お昼はイイかな。ちょっと用事を思い出したから……」
「小夜さんはお昼を食べないのですか?」
小夜がやんわり断ると隣で禍津姫が首を
「うん……
「……そうですか。わかりました……」
みんなが一緒にお昼を食べたいのは禍津姫であって自分ではない。そう敏感に感じとった小夜は一歩引いた。事実、小夜が断ると香澄たちはどこかホッとしている。
──小夜は不器用な
禍津姫は小夜の心の
「じゃあ小夜さん、また後で」
「うん。媛さん、またね……」
軽い挨拶を交わすと禍津姫は香澄たちと一緒になって食堂へ向かう。友人たちに囲まれる禍津姫を小夜はどこか寂しげに見送った。
──こんなとき、春馬はどう思うのかな……。
小夜は何気なく春馬を想った。春馬はみんなから二酸化炭素と呼ばれ、
──今さら考えてても、仕方ないか……。
小夜は孤独と罪悪感を嫌ってポケットからスマホを取り出した。相変わらず
──涼、本当にどうしたんだろう……。
ふと、小夜の脳裏に『涼の相談事』が思い浮かんだ。涼は『
──もしかして……。
あのときは気にとめなかったが、
──まさか、涼にも……。
不安はだんだんと大きくなった。涼に会いたいという気持ちが抑えがたくなってくる。
──涼の無事を確かめなきゃ!!
小夜の決断は早かった。小夜は体調不良を訴えて午後の授業を欠席することに決めた。つまり、仮病を使った。
小夜は学業優秀で品行方正。校内では模範的な生徒として学園生活を送っている。小夜が焦ったのは突然の持ち物検査で三段警棒が見つかりそうになったときくらいだった。
保険医は優等生の小夜を疑わず、すぐに早退の許可を出した。小夜は学校中に響き渡る予鈴を聞きながらバス停へ急いだ。もし
それでも、小夜は
──わたしも、春馬と同じか……。
バス停へと歩く小夜の脳裏に春馬の面影がよぎった。春馬なら小夜の不安を共有してくれる気がした。
──春馬なら聞いてくれる……。
小夜は自分の考えを無責任で身勝手に思いながらも、スマホを取り出して春馬の番号をタップした。ながい呼び出し音のあと、少し焦った春馬の声が聞こえてくる。
「さ、小夜さん? ど、どうし……たの?」
春馬は息が上がっており、声が途切れ途切れになっている。
「春馬こそどうしたの?」
「ご、ごめん。ランニングしてたんだ」
「ちょっと、自宅謹慎中でしょ?」
「そうなんだけど、黙って家にいるのは辛くて」
「そっか……」
「それで、小夜さんはどうしたの?」
「あのね、友達が……」
停学中の春馬に協力を求めるのは間違っている……そう思いながらも小夜は切り出した。
「小夜さんは友達想いなんだね。それで、僕はどうすればいいのかな?
「あのね、春馬……」
小夜は春馬の言葉をさえぎった。
「兄さんや睡魔
「え? どうして?」
「兄さんたちは襲撃の件で慌ただしくしているから……余計な心配をかけたくないの」
半分は本音で、半分は嘘だった。小夜は涼のことで周囲に波風が立つことを心配している。涼と
「これから涼の家に行ってみようと思うんだけど……春馬も一緒に来てくれないかな?」
「い、今から!?」
「うん……」
「……」
春馬が沈黙すると小夜は断られることを覚悟した。しかし、意外にも春馬の明るい声が聞こえてくる。
「どこに行けばいいの?」
春馬は待ち合わせ場所を尋ねてくる。とたんに、小夜は心が軽くなるのを感じた。
「えっと、
「うん、わかった。帰って着替えるから、ちょっと時間かかるけど……」
「大丈夫、着いたら連絡して。……あ、春馬!!」
小夜は電話を切りかけた春馬を呼びとめた。
「ありがとう。すごく嬉しいよ」
「ど、どういたしまして……」
「じゃあ、また後でね」
「う、うん」
通話が終わると小夜は吹き抜ける風に目を細めながらスマホへ視線を落とす。結局、最後まで涼のことを
──どうして春馬に言えなかったのかな……。
小夜は少しの後ろめたさを感じた。それは春馬へ対するものか、涼へ対するものなのか……小夜自身もわからなかった。