目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

第33話 告白01

 宵闇よいやみ駅は札幌市と接する宵闇市の北部にあった。電車、地下鉄、バス、様々な交通機関が乗り入れており、ショッピングモールや映画館も併設されている。



──思ったより早く着いちゃったな……。



 宵闇駅に着いた小夜は待ち合わせ場所の東改札口へ向かう。昼間の駅構内は混みあっているが、小夜のように学生服姿の女子高生は少なかった。改札前の人混みに春馬の姿はない。小夜は改札横の柱によりかかって春馬を待った。そして、10分くらい経ったころ……。



「小夜さん、お、お待たせ」

「ん?」



 小夜は名前を呼ばれて顔を上げた。目の前には私服姿の春馬が立っている。春馬は白のビックシルエットTシャツを着て、黒のジョガーパンツを穿いていた。肩から背中にかけては茶色のボディーバッグを下げている。


 よく見ると左手の人差し指には指輪を装着し、首からはチェーンを通したポーンのキーホルダーを下げている。シルバーアクセサリーはワンポイントカラーとなって春馬を大人っぽい男に演出していた。



「それ、ネックレスにしたんだ」



 小夜は春馬の胸元で揺れるポーンを見て笑顔になった。誕生日プレゼントをつけてくれると素直に嬉しい。春馬は気恥ずかしそうに頭をかいた。



「う、うん。指輪みたく身体につけてたら無くさないと思って」

「チェーンは? 自分で

用意したの?」

「そうだけど……変かな??」

「カッコイイじゃん。似合ってるよ♪」

「え!? そ、そう!?」



 春馬は女の子から「カッコイイ」と褒められるのが初めてだった。あからさまに照れて顔を赤くする。



──張り切ってアクセを付けるなんて、可愛いところあるじゃん。



 小夜は春馬の意外な一面を見た気がして微笑んだ。稲邪寺とうやじへの襲撃や、涼への心配で落ちこんでいた気分が少しだけ軽くなる。



「あ、春馬……」



 小夜は春馬のひたいへ手を伸ばした。



「もう少し、おでこを出した方が似合うよ……」

「え!?」



 戸惑う春馬を無視して小夜の指先が春馬の前髪に触れる。



「ワックスの使い方、下手過ぎ……」

「……」



 小夜は慣れた手つきで春馬の前髪を後ろへ流す。春馬といえば、小夜の真剣な眼差しに身体が硬直してされるがままだった。やがて、目にかかっていた前髪がなくなると、春馬の与える印象が暗いものから明るいものへと変わる。少し髪型を変えただけで、春馬は爽やかな美男子へと変貌をげていた。



「おっけ~♪」

「あ、ありがとう。小夜さん」



 満足そうに微笑む小夜は気恥ずかしそうにする春馬と目が合った。



「「……」」



 あまりに近い距離に気づいて小夜と春馬は同時に顔を赤らめる。二人の姿はこれからデートに向かうカップルのようだった。彼女が彼氏の髪型を直している……はたからはそう見えていても不思議ではない。二人ともそのことに気づいた。



「りょ、涼の家までは歩いて行けるから……」

「う、うん。わかった」


 小夜と春馬はお互いに動揺を隠して涼の家へ向かった。



×  ×  ×



 カフェ、レストラン、美容室……小夜と春馬は瀟洒しょうしゃな建物が並ぶ駅前通りを歩いた。



「ちょっと、春馬……」



 小夜ため息をついて立ち止まり、呆れ顔で後ろを振り返った。視線の先では、小夜と並んで歩くことに気後きおくれした春馬がオドオドとした様子で歩いている。



「あのさ、もっと普通に隣を歩いてくれないかな?」

「で、でも……」

「ストーカーにつけられているみたいで、わたしが恥ずかしいの!!」

「ス、スト……ご、ごめん!!」



 春馬は小走りで小夜に追いついた。



「もっと堂々としてよ……」

「そ、そうだよね。ひろしさんたちがいないんじゃ、僕が小夜さんを守らなきゃだし……」

「えっと……わたしを守る?」



 春馬の言葉を繰り返した小夜は数歩だけ前に進んだ。すると突然、小夜のスカートがふわりと揺れ、華奢な背中が宙に浮いて一瞬で回転する。その瞬間、春馬の鼻先を小夜のローファーが掠めた。刹那の回し蹴りに春馬は反応すらできず、瞠目どうもくしたまま声を失った。



「ねえ、春馬。もしかして、わたしのことをとでも思ってる??」



 小夜はトントンとかかとでアスファルトの地面を小突く。もし、ローファーの硬いかかとがこめかみ当たっていたら……想像するだけで春馬の背中を冷汗が流れた。



「よ、弱いだなんて……お、思ってないです……」

「それなら、おっけ~♪」



 笑顔で歩き始める小夜を春馬は無言で追いかけた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?