とり憑かれていたとはいえ、涼は『
寛にとって鈴宝院家……つまり
──なんて言えばいいの……。
小夜が言葉に窮していると気まずい空気に耐え切れなくなった春馬が口を開いた。
「あ、あの……普通にお友達なんじゃないですか? さ、小夜さんと涼さんの関係性って、今必要ですか?」
春馬は気を
「俺は小夜に聞いているんだよ。
「……」
寛は春馬の学校での陰口で呼んだ。春馬があからさまに顔を
「下郎、春馬を侮辱するなら皆殺しにするぞ」
「……やってみろよ」
禍津姫が感情のこもらない声で言うと寛は椅子によりかかりながら不敵に笑ってみせる。その態度は挑発的で、「やりたきゃやれよ」と言わんばかりだった。「どうせ春馬が手を出させない」と読みきっている。
──無軌道に見えて計算高いヤツじゃ。こういうヤツは必ず何か切り札を隠し持っている。いっそ本当に殺してしまうか……しかし、春馬が許さぬじゃろうな。
禍津姫の眼光はさらに鋭くなってゆく。会議室の空気はさらに重く、殺伐としたものになった。そこへ、会議室の扉がノックされて
「みなさん、お待たせしました。あれ? 緊張感が
臣は張りつめた空気を察してもにこやかだった。中性的な童顔に薄い笑みを浮かべると重苦しい雰囲気が幾分か
「それでは……小夜さん、話して下さい。でも、言いにくいなら無理して言わなくても大丈夫です」
臣が柔らかな声で
小夜の話を臣は黙って聞いていた。その姿からは精一杯、小夜により添おうと努力しているのがわかる。臣は他人が深刻に考えている事柄を真剣に共有する……成熟した大人でも難しいことを平然と行う凄味があった。
「よく話してくれました。ありがとうございます……」
小夜が語り終えると臣はにこりと微笑んだ。そして、あらためて春馬や
「禍津姫さん、春馬さん、それに
「わらわは春馬が小夜に助力したから助けたまでじゃ。礼にはおよばぬ」
「僕は……何も……」
「キュ……」
禍津姫の膝の上にチョコンと乗っている花魄までもが返事をする。すると、どこか面白くなさそうな顔の寛が尋ねた。
「キング、これからどうしますか?」
「そうですね……」
臣は一瞬だけ思案顔になったが、すぐに全員を見渡した。
「みんなで、学校見学でもしませんか?」
「「「学校見学??」」」
春馬たちは意味がわからず、一斉に臣を見る。臣の後ろに直立する睡魔も不思議そうに首を
「はい。とってもよい考えだと思うんです!!」
臣は満面の笑みで続けた。
「涼さんが何者かにとり憑かれているのは間違いないでしょう。でも、学校を調べてみなければ、ことの真相はわかりません。ですから、みんなで
「……それはいいですけど、他校の生徒が雨藤に入れるんですか?」
春馬が不安そうに尋ねると臣は後ろの睡魔を見上げた。
「睡魔さんどう思いますか?」
「そうですね……一般的な学校見学の時期はもう少し先ですが、転入希望者として見学要請を出せば可能かもしれません」
「そうですか!! じゃあ、ボクと小夜さん、春馬さんで転校希望者として雨藤に行ってみましょう!!」
「……」
春馬は絶句しつつも、心のどこかで納得していた。
「今から楽しみです。寛さん、いいですよね?」
「キングの考えですから異論はありません。ただ、護衛はつけさせてもらいます」
「寛さんは心配性ですね……小夜さんと春馬さん、それに
春馬が来るということは自動的に禍津姫も一緒だった。それなら、臣には最強のボディーガードが付いて来ることになる。
「……でも、春馬君は本当にいいのかい?」
ふいに、寛は春馬へ尋ねた。その顔は笑いを
「え? 僕は別にかまいませんけど……」
「ふぅん。あ、そう。ガチだな?」
「……は、はい」
春馬は寛の顔が意味する所をわからないまま
「じゃあ、決まりですね!! ボク、学校へ入学する前に色々と見学してみたかったんです!! さっそく明日にでも雨藤へ行ってみましょう!!」
臣は嬉しそうに結論付けて席を立った。
「春馬さん、ボクたちはこれから
「いえ、こちらこそ。キ、
「はい!! 春馬さん、また明日!!」
春馬は勇気を振り絞って「キング」と呼んだ。臣は嬉しそうに微笑むと睡魔を
──僕もキングって呼べた……よかった。
春馬は
「クックック。春馬君、明日はイロイロと大変だろうけど……まあ、頑張ってくれよ。小夜、行くぞ」
寛は相変わらず意味ありげに笑いを
「春馬、今日はありがとう」
短い言葉には最大限の感謝がこめられている。小夜は気恥ずかしそうに頬を赤くしていた。
「えっと、大したことしてないよ……小夜さんもまた明日」
「うん、また明日ね」
春馬が照れ臭そうに応えると小夜は寛を追いかけてゆく。会議室には春馬と禍津姫、そして部屋中を駆け回る
「
禍津姫は夢中になって『ウサギのぬいぐるみ』と