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第59話 因縁……果 僕達はみえない糸で繋がっている⑦


「待っ、ゴホゴホ。待って下さい!」

松は、逃げるように立ち去ろうとする役人に必死で声をかけた。


「私が元気になったら、何倍も頑張って働きます。だから、

うっ、ゔうっ」


「ま!!……」

クオリアは慌てて松の側に駆け寄った。


『ぐぐるしい……』

しかし、松はそんなクオリアの口をすぐに左手で塞いでいた。


そして、クオリアにしかわからないよう小さく首を振ると、話の続きを始めた。


「だからどうか母を助けてください。お役人様。どうか、どうかお願いします!」

寝たきりの体を起こし、松は役人に深々と頭を下げた。何度も何度も。


「偉い! 親孝行だね。おじさんそういうの好きだよ。

わかった。そうだね!おじさんもそれが一番正しいと思う」

役人は松の言葉に上機嫌になりそう返していた。


(何が一番正しいだって?てめえ、こんにゃろー!)

クオリアは今にも役人の背中をグーでぶん殴ろうかと言わんばかりに片手を大きく振り上げた。

しかし、先ほど松に止められていたこともあったので、

お役人が帰ってしまうまで歯を食い縛り必死で堪える他なかった。


「ごめんね、松。本当にごめんね……」

クオリアは、何もできない自分に苛立ち、涙を流すしかなかった。



翌日以降、クオリアは毎日松のもとを訪れるようになった。

「キーちゃん、いつも来てくれてありがとう」

松は、クオリアの優しさに感謝の気持ちを伝えた。


「いいよ。だって、私たち友達だもん」

クオリアは、そう言って松の頭を優しく撫でた。


「うん、ありがとう。キーちゃん」

松は微笑んだが、その瞳には、年不相応の深い悲しみが見え隠れしていた。


クオリアは、その時の松の気持ちを理解できなかった。まだ、現実が飲み込めないでいたのだ。

「松は、病気と一生懸命戦っている。だから、私も頑張らなきゃ!」

クオリアは、そう心に誓い、松を励まし続けた。




やがて冬が終わり、春が近づこうとしていた頃、松の兄からの知らせが届いた。

「兄さんが明日、遂に島に帰って来るんだよ。楽しみだなぁ」

松は、兄との再会を心待ちにしていた。


「うん。きっと嬉しいだろうね」

クオリアは、松の笑顔を見ているのが嬉しい反面、切なくもあった。


「うん。ありがとう。キーちゃん。

ゴホゴホ、ゴホゴホ」

松は突然咳き込み始めた。


「松、大丈夫?今水を持ってくるわ」


「ゔうっ、ごめんね、キーちゃん」


「松、無理しないでね」

クオリアは、心配そうに松を見つめた。


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