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三途の川と機械神のレクイエム

第38話 真っ白な記憶

村人たちは、少女のことを"龍神様の申し子ミタ"と呼び、特別な存在として扱った。

「ミタ様、今日はどちらへ?」

「ミタ様、お茶でもいかがですか?」

村人たちは、いつも笑顔で美嗣に話しかけたが、

ミタは、その笑顔に応えることができなかった。


(龍神様の申し子……? 私が……?)

ミタは、自分の過去を一切覚えていなかった。

名前も、年齢も、両親のことも、何もかもが真っ白だった。

まるで、生まれたばかりの雛鳥のように、美嗣は世界に一人取り残されたような気持ちだった。


「私は……一体何者なんだろう……」

ミタは、いつも空を見上げていた。

昼と夜の概念がないこの星の空は、いつも赤黒い星が異様な光を放っている。

その星を見つめていると、胸の奥が締め付けられるような、懐かしいような、不思議な感覚に襲われた。


(この星……この空……どこかで見たことがあるような……)

しかし、その記憶は、すぐに霧のように消えてしまう。


ミタは、自分の過去を知りたかった。

自分が何者なのか、何のために生まれてきたのか、知りたかった。

しかし、手がかりは何もない。

ただ、真っ白な記憶だけが、ミタを不安にさせた。


(私は……一体……)

ミタは、自分の存在意義を探して、彷徨い続ける。


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