村人たちは、少女のことを"龍神様の申し子ミタ"と呼び、特別な存在として扱った。
「ミタ様、今日はどちらへ?」
「ミタ様、お茶でもいかがですか?」
村人たちは、いつも笑顔で美嗣に話しかけたが、
ミタは、その笑顔に応えることができなかった。
(龍神様の申し子……? 私が……?)
ミタは、自分の過去を一切覚えていなかった。
名前も、年齢も、両親のことも、何もかもが真っ白だった。
まるで、生まれたばかりの雛鳥のように、美嗣は世界に一人取り残されたような気持ちだった。
「私は……一体何者なんだろう……」
ミタは、いつも空を見上げていた。
昼と夜の概念がないこの星の空は、いつも赤黒い星が異様な光を放っている。
その星を見つめていると、胸の奥が締め付けられるような、懐かしいような、不思議な感覚に襲われた。
(この星……この空……どこかで見たことがあるような……)
しかし、その記憶は、すぐに霧のように消えてしまう。
ミタは、自分の過去を知りたかった。
自分が何者なのか、何のために生まれてきたのか、知りたかった。
しかし、手がかりは何もない。
ただ、真っ白な記憶だけが、ミタを不安にさせた。
(私は……一体……)
ミタは、自分の存在意義を探して、彷徨い続ける。