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第14話 チ

薄暗い洞窟の奥にひっそりと佇む古びた社。静寂に包まれた空間に響くのは、水滴が滴り落ちる音だけだった。


「こ、これ? さっきここに来る前にちょっと転んだだけだよ」

少年は体中が擦り傷と打撲、あざだらけで、その姿は痛々しかった。

蓮姫は少年の震える肩を抱き寄せて言った。「嘘言うな!!」


「お姉ちゃんには関係ないよ!!」

少年は蓮姫の手を振り払った。

「ごめんなさい。僕もう今日のお祈り済ませたから帰るね。さよなら」


「おい、ちょっと待て」

しかし、少年は振り返ることなく、ただ逃げるように社を出て行った。


(あいつの顔……、ただ事じゃないな、これは)



翌日、蓮姫は少年の家を訪ねた。そこには古ぼけた木造の家がひっそりと佇んでいた。近所の大人に話を聞くと、少年は学校でも孤立しているらしい。


学校の校庭。子供たちの笑い声が響く中、一人の少年がじっと壁にもたれていた。それが、蓮姫が探していた少年、アキアだった。


「おい!アキア!お前学校終わったらすぐに帰るし、お前のそういう態度が気にいらないんだよ!」

アキアは、いじめっ子たちに囲まれ、肩を震わせていた。

誰かが茂みの陰からその様子をじっと見つめていた。


「早く帰らなきゃ。お願い、早く帰してよ!」


「こいつ変ってるよな。マザー様の祭りでもないのに毎日社でお祈りしてるらしいし~」


「え?それホントか?だっせぇ~!」


「ホントに僕、帰らなきゃいけないの!そうしなきゃママが……」


「おい、みんな今の聞いたか!?こいつ、ママだってよ~!ママでちゅか~?ホントにアキアきゅんはおこちゃまでちゅね~?」


アキアの必死な声が、蓮姫の心を痛めた。


「もう!」

ついにアキアは堪え切れなくなり、いじめっ子の一人を突き飛ばしてしまった。


「あ!こいつ……!みんな今見たよな?こいつ今俺の胸ぐらつかんできたよな?」

いじめっ子たちは一斉にアキアを取り囲み、殴ろうとした。


まさにその瞬間だった。アキアの背中から聞き覚えのある声がしたのは。


「なぁ~お前ら?お前らにとって母親を敬って大切にしている奴はみんな、母親依存マザコンと同類でバカにしてもいいって言うことなのか?言ってみ?」


いじめっ子たちは、蓮姫の迫力に押され、言葉を詰まらせた。

蓮姫は、いじめっ子たち一人ずつに軽いゲンコツをして追い払った。


「あの~お姉ちゃん?」


「ああ、小僧。いじめっ子共は追い払ったぞ。よかったな!」


「え~と……」

アキアは複雑な表情で蓮姫を見上げた。


「どうした?お前さっきからどうも釈然としない顔してんな?あ、そっか!私が下僕って言ったことだな?」


「違うよ~!!ま~それも無くは無いけどさ、どうして僕までげんこつ貰わなくちゃいけないのー!!」


「アハハ、わり~わり~♪」

蓮姫はアキアの言葉に笑い、頭を掻いた。


「まあ、助けてもらえたからいいんだけどね。ありがとう、お姉ちゃん」


「おうよ!ところでさ、お前いろいろ家庭に事情あるんだな?私に聞かせてくれないか?」


「う……うん」



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↑【登場人物】

•アマザ《蓮姫》

•ハムザ

•アキア

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