私達が遭遇した【黄金の流星団】という冒険者パーティ。
後に知ることになるが、冒険者なら知る人ぞ知る大規模な
通り名では『シューテングスター』と呼ばれるパーティで冒険者ギルドからの評価が高く、団結力と結束力が非常に強い。
まさに組織としての力を重視しており、連携力の高さは他のパーティでは類を見ないと言われている。
さらに幹部である主力団員達は、転生勇者に匹敵する実力の持ち主であるらしく、「個」としての力も十分に備わっているようだ。
そんな人達に今、私達は狙われている。
まさか、アスムが「烏合の衆」とか言っちゃったことが聞こえていたとか?
いや、いくらなんでも……。
そして現在――。
危ない! 轢かれるぅぅぅ!
びびった私は両目を瞑って身を屈ませた。
直後――ぴたりとクエーサーの群れが動きを止め、牽引する鋼鉄のワゴン車両も停止された。
「……た、助かった?」
私は恐る恐る目を開ける。
眼前に闘牛もどきの魔物ことクエーサーの群れが鼻息荒く固まっており、巨大な砦のような運搬車両が佇んでいた。
高々と【黄金の流星団】の旗を掲げながら。
一方で、アスムは特に臆することなく堂々と両腕を組み仁王立ちで、「フン」と鼻を鳴らしていた。
その他、ラティ、エルミア、マイン、ディフも同様に平然と突っ立っている。
な、何よ! びびっていたのは私とニャンキーだけかい!?
「ちょっと、ニャンキー! いい加減、離れてよ! もう、あんたのせいで、すっかり私まで
「……ユリさん、違うニャア。あのワゴンの中にいる誰かが本気で、ボクらを轢くつもりだったニャア……ボクには相手の殺意がわかるニャア」
え? そ、そうなの……ガチで?
確かにニャンキーの危機察知能力は目を見張るものがあるけど。
でも、どうして殺意を抱かれなければいけないわけ?
すると
茶色い髪を靡かせ瞳がくりっとした、まだあどけない可愛らしい少年だ。
けど私には見覚えがある顔だ。
いえ会ったことは一度もない……そう女神スキル、〈
「――アスムゥ! ニャンキー! マインじゃねぇか!?」
「……ダリオ君か?」
あっ思い出したわ。
ダリオ・エンバス。
元アスムの勇者パーティにいた
確か最終決戦前に、解散を告げたアスムと喧嘩別れしたのよね。
ダリオは「よいしょ」と軽快な動作で
「よぉ! 久しぶりだな、お前ら! 元気にしていたか!?」
とても喧嘩別れしたとは思えないフレンドリーな態度。
空気を読めないアスムでさえ、ダリオのハイテンションぶりについて行けず、「あ、ああ……」と躊躇している。
「見てのとおりだ……しかし、どうしてフリーのダリオ君が【黄金の流星団】のワゴンから出て来たんだ?」
「ああ、オイラは今、【黄金の流星団】の団員として厄介になっている……アスム、お前らと別れた後、色々とあったんだ」
「そうか、その節はすまなかった……あの時は、ああするしかなかったんだ」
「わかっている……実はフォルドナ王国でガルドの旦那とハンナと会っているんだ。旦那達から色々聞いてよぉ。お前がオイラ達の身を案じて解散を言い渡したって……んで、ニャンキーと二人で魔王と邪神を斃したんだろ?」
勇者パーティが解散したきっかけは、魔王軍の最高幹部である四天王のリーダー格『朱雀のベニザ』との戦いで、ガルドが負傷しハンナと共に戦線離脱したことからだと聞く。
そのガルドも無事に回復しハンナと共に祖国に戻れたようだ。
特に乙女の私としては、その後の二人の恋路も気になるところだわ。
「ん? ま、まぁな……(その魔王は俺の隣で、マンドレイクのコロッケを頬張っているがな)」
アスムは横目で、むしゃむしゃと食べているラティに視線を向けている。
「ボクは敵を引き付けただけニャア。全部、アスムが一人でやっつけたニャア」
嘘が苦手な勇者の代わりに、ニャンキーは陽気な口調でフォローした。
「そうか……やっぱ凄ぇな。オイラ、すっかり誤解しちまって……別れ際に『イカレ糞勇者』とか言っちまってごめんよぉ」
「もういいんだ、ダリオ君。俺も説明が面倒……ぶほっ! いや、説明不足が原因だ。責められても仕方ないと思っている」
今、説明が面倒と言いかけたよね? 聞き逃さなかったわ。
「そうかならいいや。ところで新しい仲間が増えているな? そこの水色髪の綺麗なネェちゃんがユリさんだろ? ガルド旦那から凄い
「初めまして。そんなことありませんよ、フフフ」
ガルドくんには私の正体ぶっちゃけたけど、褒められると悪い気はしないわ。
そういう良い噂はもっと流してほしいって感じ。
「腕は確かだが少し残念なところがある
おい、お前なんっつた!?
狂人勇者のあんたにだけは言われたくないんですけど!
それから初見のラティとエルミアが自己紹介して、ダリオと挨拶を交わした。
「うむ。汝はオッさんのわりには童顔で、妾よりもちっさいのぅ」
「何だ、このガキは? 随分と態度デカくね? 言っとくが、オイラ達
「エルミアです。勇者アスム様が布教する『モンスター飯』の一番弟子ですぞ。同じ妖精族同士、仲良くいたそう」
「げっ、アスム……おまっ、ついに弟子までとったのか? 『モンスター飯』もうやべーな……まぁよろしくな」
などと言いながら、ダリオはチラっと佇んでいる四角い物体を一瞥する。
「……何、こいつ?」
『DF-150号ディフと申しマス。どうかヨロシク』
その機械的な声に、ダリオは「うおっ、喋ったぞ!」と驚いている。
「山代から借りた小型ゴーレムだ。ダリオ君も奴と会ったことがあるだろ?」
「ああ、勇者ジュンね。あの怠け者の所有物か……アスムもあんなのと付き合って物好きだな。ところで、お前ら何処に行こうとしているんだ?」
「グサンタム帝国だ」
「え? 奇遇だな、実はオイラ達も――」
ダリオが言いかけた時だ。
それはダリオと同じ身形であり
顔つきも良く似ている。唯一異なるのは、青い髪色と表情が引き締まっており凛とした風格があること。
さらに身形も小奇麗に着こなし、紳士的な雰囲気を漂わせている。
「ダリオ、その人達は?」
「ああ兄貴、前に話した勇者アスムとその仲間達だ」
「兄貴だと? ダリオ君に兄がいたのか?」
アスムの疑問に、ダリオは首を横に振るう。
「違うよ。従兄のミハインだ。ああ見ても30歳で年上だが、【黄金の流星団】の副団長を務めるほどで、オイラより遥かに優秀な
ダリオの紹介で、ミハインは畏まった丁寧なお辞儀をしてみせる。
「ミハイン・ソムルです。貴方があの強大な魔王と邪神を討伐された英雄の勇者アスムさんでありますか……以後お見知りおきを」
「こちらこそ、ダリオ君が世話になっている。よろしく頼む」
基本、自分より年下(精神年齢なら転生前の35歳以上)相手にタメ口のアスムは、ミハインと握手を交わした。
「いえ、ダリオは僕にとって親戚ではありますが同族でもあります。特に我ら
「そうか? 俺は
何せ、わざわざ禁断を犯してまでダリオの固有スキルをコピーするくらいだからね、この男。
アスムの言葉に、ミハインは「ははは」と爽やか笑みを浮かべる。
しかし同時に纏う空気が変わった。
まるで鋭利な刃のような眼差しをアスムに向ける。
「――では何故、『烏合の衆』などと?」
あっ、やっぱ聞こえていたのね!
てことは、ニャンキーが言っていた殺意を向けた張本人はこのミハインってこと!?
つーか、どんだけ地獄耳なのよ!?
懐かしい戦友との再会の筈が、思わぬ形で窮地に立たされてしまう勇者アスムと私達であった。
自業自得だけどね。