土曜日の昼だった。仕事が休みなため、ベッドでごろごろしながらゲームをしていると、航太からメッセージが入った。
「今日、暇か? よければ泊まりに来ないか?」
日南隆二の世話役になったとはいえ、あちらも今日は休みらしい。
オレはすぐに「行く」とだけ返信して、ベッドから飛び起きた。
その後、いくつかやりとりをして、航太のマンションの近くにあるスーパーの前で落ち合った。
「夕飯、何食べたい?」
一緒に食品売り場を歩きながら航太がたずね、オレは考える。
「うーん、いつもと違うのがいいな」
「たとえば?」
ちらりと見やった棚に、にんじんとじゃがいもが見えた。途端にひらめいてオレは言う。
「カレーがいい」
「ああ、まだカレーは振る舞ってなかったな。一人分だとなかなか作りにくいが、二人分ならどうにかなるか」
納得したように言って、航太がにんじんとじゃがいもをかごへ入れる。
次に玉ねぎの棚へ向かって歩きながらオレへ聞いた。
「あまり辛くない方がいいよな?」
「うん、中辛でいい」
「中辛か……」
どこか物足りなさそうにする航太だが、どうせ彼のことだから、またデスソースをかけようとしているに違いない。 オレは内心で呆れつつも、彼の買い出しに付き合うことを楽しく思っていた。
買い物を終えて航太の部屋へ。何だか久しぶりに来たような気がする、と思いながら椅子へ腰を下ろした時だった。
航太のデバイスが着信を知らせた。
「あれ、日南さんだ」
つぶやいてから航太が電話に出て、オレは少しもやもやしながら様子を見守った。
「どうしたんですか?」
航太は言いながら食材を冷蔵庫へしまっていく。
「ああ、そのことですか。ええ、それで大丈夫ですよ」
まだ日南隆二とは長い時間を過ごしているわけじゃないはずなのに、話をする様子はずいぶん親しげだ。
「そうそう、そうしておいてくれれば。ええ、はい……分かりました」
航太がにこりと笑うのが見えて、もやもやが
「はい。では、また」
ようやく電話が終わり、オレは不機嫌に口を出した。
「休みの日にまで、いったい何なんだよ」
デバイスから視線を上げた航太は、ふうと息をついてから返す。
「日南さんが連絡していいのは僕だけなんだ。頼れる人がいないし、僕が休みの日には話し相手がいないんだから、しょうがないだろう」
まさかそんなことになっていたなんて知らなかった。
「他にも制限かかってんのか?」
「ああ、彼のデバイスは取り上げてある。代わりに局の用意したものを与えて、外部と接触できないようにしているよ」
「何だよ、それ。保護じゃなくて監禁じゃねぇか」
むすっとしてオレが言うと、航太は苦い顔をした。
「僕もそう思うが、状況からすれば仕方ない部分もある」
だからって航太の負担になるようなことはしないでほしい。まったく、上層部の考えることは意味不明だ。