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第32話 独り占めしたい

 日南隆二について、航太はこう語った。

「なかなかおもしろい人だよ。ミステリー小説についてくわしいし、パソコンなんかも好きらしくていろいろと話が合うんだ」

 久しぶりに航太の部屋で食べる夕食だった。

 献立はカレーライスで、市販のルウに一手間加えた航太のオリジナルだ。ほどよくスパイシーで美味しく、オレは一口食べて気に入ったのだが。

「けどそいつ、おっさんなんだろ」

 と、不機嫌に返す。航太がさっきから日南隆二のことばかり話すから、すっかり嫌になっていた。

 仕方がないことは分かっている。終幕管理局は保護という名目で、日南隆二の行動を制限していた。

 航太は察しているのかいないのか、スプーンを止めて不安そうに言う。

「口に合わなかったか?」

 オレは迷った。素直に文句をぶつけたいのが本心だが、脳は落ち着いて何もなかったように振る舞えと言う。

 でも、オレはやっぱり未熟だ。

「違ぇよ。カレーは美味いけど、知らねぇおっさんの話ばっかりすんなよ」

 素直に感情を表すと、航太は目をぱちくりさせた。

「楓……もしかして、嫉妬か?」

 どこか嬉しそうに航太がたずね、オレの胸のもやもやがざわつく。ただでさえ一緒にいられる時間が減ってフラストレーションが溜まっているのに、二人の時間さえも邪魔されて、オレはいつの間にか幼稚な感情にとらわれていた。

「嫉妬して悪いかよ」

「いや、むしろ嬉しいな」

 航太はにこにこと微笑みながら続けた。

「楓は素直じゃないけど、そうやってやきもちをいてくれるのは、僕のことを独り占めしたいって思っているからだろう? そう思ってくれるということは、僕のことがそれくらい好きだってことだ」

 まさにその通りなのだが、いざ言語化されてしまうと、恥ずかしくてたまらなくなってきた。

 オレはグラスの水をごくごくと飲み干して気持ちを落ち着かせようとするが、航太はやっぱり意地悪なやつだった。

「意外と独占欲強いんだよな、楓って」

「っ……」

 もうやだ、もうやだ、もうやだ。

「オレはそんなに子どもじゃない!」

 言い返しながらもうつむき、オレは情けない自分を隠そうとしてしまう。

 しかし航太はかまうことなく、くすりと笑って穏やかに言う。

「子どもでいいんだよ。大人なんて大きくなった子どもでしかないんだし、しっかりした大人なんて幻想だ。少なくとも僕の前では、子どもじみた姿を見せてくれると嬉しい」

 そんなことを言われても、オレはどうしようもなく天邪鬼あまのじゃくで。

「ヴァシュ!」

 ついつい、アトラリスス語が出てしまうのだった。

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