「次に『幕開け人』が現れた時は、君たちに向かってもらおうと考えている」
日南隆二が保護されてから二週間が経過していた。
あまり乗り気になれなかったオレだが、課長の次の発言には驚いた。
「また、同時進行で物語の墓場を
「え?」
「どういうことですか?」
思わず目を丸くするオレたちへ、課長は一つ息をついた。
「そのままの意味だよ。『幕開け人』がこれ以上、虚構を再生できないように壊すんだ」
理屈は分かる。分かるけど、そこまでする必要があるかどうかは疑問だ。
「それには一人でも多くの人員が必要になる。『幕開け人』の消去をする時には千葉くんに戻ってきてもらうから、そのつもりでいなさい」
えっ、航太が戻って来る!? やった、やっと戻って来るのか!
自然と気分が高揚して、オレは先ほどまでの仏頂面から明るい表情へ変わった。
「分かりました」
と、土屋さんもどこか安心したように返し、課長は黙ってうなずいた。
夕方四時。ついに「幕開け人」が物語の墓場へ姿を現した。
記憶還元室で待っていると、遅れて航太がやってきた。
「すみません。すぐに行きましょう」
「ええ」
土屋さんと航太がさっさとRASのある部屋へ向かい、オレも後をついていく。
航太の隣に並んでオレが黙って拳を差し出すと、察した彼が軽くグータッチを返してくれた。
「やっとだな」
「帰りはだいたい一緒だったけどな」
くすりと笑う航太だが、オレはそっぽを向いた。彼と虚構世界に入れることが、無性に嬉しくてたまらなかった。
すでに物語の墓場の破壊作業が始まっていた。
事前に聞かされていた情報を元にマンション付近を探していると、駐車場でそいつらを見つけた。
オレはにやりと笑ってから声を張り上げる。
「日南梓、まだ生きてたのかよ」
すると後ろから土屋さんが呆れたように言う。
「田村くんは本当に馬鹿ね。生きてたんじゃなくて復活したのよ」
「土屋さん、細かいことはどうだっていいじゃないですか」
と、なだめるように航太が言い、オレはますます嬉しくなる。やっといつものC班が戻って来た。
駐車場の中へ足を踏み入れて近づいていく。
オレが一度消した日南梓は、そっくりそのまま復活していた。後ろにいる髪の短い女が「幕開け人」の北野響らしいが、もう一人男がいた。
日南はこちらを警戒するようににらみながら言う。
「お前らが『幕引き人』か?」
オレは足を止めて返した。
「ああ、そうだが?」
一瞬、二人の視線が
「オレたちを消しに来たんだろう? 悪いが、見逃してくれないか?」
「はあ? んなわけねぇじゃん!」
何を言い出すかと思えば命乞いか。虚構のくせになんて愚かしい!
あまりのおかしさにオレは笑い声を上げた。土屋さんが息をつき、航太が呆れているような気配を感じたが、かまわずに笑い続ける。
何故なら、今のオレは最高に気分がいいからだ!
気が済むまで笑ってから、深く息を吸いこんだ。
これまでのフラストレーション、すべてぶつけさせてもらう。元はといえば、お前ら「幕開け人」のせいだもんなぁ!?
「さっさと消えろよ、ゴミ」
日南がびくっと肩を揺らし、かまわずにオレは続ける。
「お前らはいらねぇんだよ。価値のない想像なんざ、ゴミでしかねぇ」