付き合っているとは言っても、航太の部屋へ行くのは週に二日か三日だ。そのうちの一度は泊まりだし、それも毎週末と決まっている。
「ごめん、楓。今日はこれから、日南さんと食事なんだ」
定時が近づいた頃、航太が突然言い出した。
「そうか」
どう反応したらいいか分からず、素っ気ない返事をしたオレへ航太は困ったように少し首をかしげる。
「嫉妬しないか?」
「いや……しないこともないけど、別に」
相手が日南隆二であることは引っかかるが、今や航太にとっては友人だ。友達との時間まで妬ましく思うほど、オレは浅ましくない。
「彼と二人きりでも?」
「うーん」
そう言われるとやっぱり引っかかる。嫉妬も少しはするけど、オレだって少しずつ大人になっているのだ。
「ただの友達なんだろ? それならいいよ」
と、オレが返すと航太はほっとしたような、でもどこか腑に落ちていないような顔をした。
「もっといろいろ言われるかと思った」
「言わねぇよ」
航太に独占欲が強いと言われてから、オレはそのことを意識するようになった。それに周りには仲間たちがいる。きっと会話も聞かれているはずだ。
そうした状況を踏まえて、オレは言葉を選びつつ返す。
「オレといない時にお前が何してようと勝手だろ。そこまで
毎日朝から晩までべったりしたいわけでもない。オレだって一人の時間はほしいし、航太だって同じだろう。
「そうか。ありがとう、楓」
にっこりと優しい顔で笑う航太から視線を外し、オレは彼に背を向けた。
定時を知らせる鐘が鳴り、すぐに席を立ってロッカーへ向かう。
さっと鞄を取り出してオレは「お疲れさまでした」と、早々にオフィスを出た。
独身寮の食堂で腹を満たし、部屋でのんびりしているとチャイムが鳴った。誰か来たらしい。
「はーい」
言いながら玄関へ向かい、扉を開けてやる。
「こんばんは、田村くん」
そこに立っていたのは小柄な三柴さんだった。いつものように、にこにこと笑っている。
「何の用すか?」
きょとんとしつつオレが聞くと、彼は鞄からお菓子を一つ取り出した。
「これ、実家から届いたからおすそ分け。仕事終わりにみんなに配ったんだけど、田村くん、真っ先に出て行っちゃったから」
軽く苦笑して見せる彼からお菓子を受け取り、オレは「ありがとうございます」と返す。
三柴さんは定期的に、地球にある実家から食べ物やお菓子が届くようで、みんなにおすそ分けしてくれる。今回は「東京ひよ子」だ。
「意外と落ち着いてるんだね」
「何がっすか?」
「だって、千葉くんが他の人と食事に行っちゃったでしょ? 田村くん、もう少し嫉妬するかと思ってた」
どこかあっけらかんと三柴さんが言い、オレは気まずくなって視線をそらす。
「嫉妬しないわけではないですけど、その、オレも大人にならなきゃだし」
「寂しくないの?」
「……否定はしません」
オレが苦笑いを返すと、三柴さんはくすりと笑った。
「そうだよね。じゃあ、また明日」
「あ、はい」
三柴さんが廊下を戻っていき、オレは扉を閉める。
手の平に乗った「ひよ子」を少しの間ながめてから、鍵を閉めて部屋へ戻った。わざわざオレの顔を見に来てくれたのかと思うと、少し嬉しかった。