夕食の後、シャワーを浴び終えた航太が言った。
「明日の午前中、日南さんたちが来る」
ベッドでごろごろしながら待っていたオレは、起き上がって彼を見る。
「来るって、ここにか?」
航太はうなずいた。
「ああ、そうだ。僕に相談があるらしくて、記録課の人を連れてくるそうだ」
ということは、三人で話をするのか。
「もしかしてオレ、帰った方がいい?」
心配になってたずねてみると、航太は首を振った。
「いや、いてくれてかまわないよ。ただ、いつもみたいにのんびりできそうにはないが」
と、航太は隣に腰を下ろした。さっきまでドライヤーの音がしていたが、髪の毛がまだ少し
オレはちょっと視線をそらしつつ返した。
「別にいいよ。その後にのんびりすればいいんだし」
「そうか、そうだな。そうしよう」
不思議な台詞を放ってから航太がにこりと笑う。
「でも、楓の機嫌はとらなきゃな」
と、オレの顎を取ってキスをする。
オレはまぶたを閉じて彼から与えられる刺激に応じて、半ば無意識にその腕や肩に手を触れる。
いつものように長く唇を重ねた後で、航太がオレを背中から抱きしめた。オレの肩へ顎を乗せ、甘えるようにする。
「明日の朝、何食べたい?」
「卵かけご飯」
「納豆もあるぞ」
「それはいらない。好きじゃない」
「そうだったな」
くすくすと笑う航太へ体を預けるようにして、オレは彼を見る。
「なぁ、航太」
「ん?」
「もうすぐ八月だろ? 夏なんだし、オレ、いろいろ行きたいところあるんだけど」
航太は優しい声でたずねた。
「たとえば?」
「……プール、とか」
「お前、泳げないじゃないか」
「本当は海がいいけど、ねぇんだもん」
スペースコロニーは人工の惑星だ。地球と違って海はなく、さらに言えば地面もすべて人工物。土や砂は地球から運んできたものだった。
「たしかに海はないな。それじゃあ、考えておこう」
「うん。それと……」
言おうとして目が合い、何だか急に恥ずかしくなってしまった。
「それと、何だ?」
優しい目をして航太が聞き返し、オレは口を閉ざす。
一緒にお祭りへ行きたいと言えばいいだけだと分かっているのに、心が恥ずかしがってしまって言葉が出てこない。
「恥ずかしくなるようなことなのか?」
「そ、そうじゃないけど……」
お祭りなんてカップルにとっては定番中の定番だ。でも、本当はそれだけじゃなくて、花火もしたい。二人でやって楽しいものかどうかは知らないけど。
「教えてくれないのか。それじゃあ、とりあえずプールだな」
「……うん」
航太がオレの頬に手をやって振り向かせ、さっきよりも深いキスをした。