朝食の後、オレはベッドに寝そべりながらゲームをしていた。
航太は来客に備えて片付けをしており、どことなく落ち着かない雰囲気だ。
やがて日南隆二がやって来て、航太が明るく迎える声が聞こえた。
「いらっしゃい、日南さん」
「お邪魔します」
と、日南隆二らしき声。その後で小さく女の声もした。どうやら三人目は女性だったらしい。
「どうぞ、座ってください」
航太がうながし、客たちが椅子を引いて腰を下ろす。
「奥に人がいますけど、気にしないでください。どうせあいつは興味がないでしょうから」
「あ、そうなんだ」
興味がないというより、部外者だから関わりたくないだけだ。オレは日南隆二との面識もないし。
オレがそんなことを考えている間に、航太が茶を出したらしい。
「緑茶じゃないですか」
と、驚く女の声がし、航太は言う。
「ちょっと高いけど、買える場所があるんですよ。よければお教えしましょうか?」
「え、いいんですか? ぜひお願いします」
「では、後ほどお教えしますね」
緑茶を売ってる店を教えたのはオレだ。ちょっともやもやする。
航太が席につき、真面目な調子で言った。
「さっそく本題に入りましょう。僕は業務課六組の千葉航太と申します」
「記録課の
彼らの話が始まったところで、オレは寝返りを打ってゲームに意識を集中させた。
客が帰っていったところでオレはベッドを出た。
食卓でノートパソコンを使っている航太のそばへ寄る。
「何だったんだ、あれ」
彼らの会話をちゃんと聞いていたわけではないが、話の途中で一坂が泣き出したのは分かった。何やら複雑な事情があったようで、航太と日南はそんな彼女に声をかけて励ましていた。
どうにか落ち着いたところでまた少し話をして、二人は帰ることになったのだが。
航太は画面を見たまま答えた。
「消してほしい記憶があるそうだ。でも、彼女はまだ想像した物語に未練を持ってる。愛着と言ってもいいかもしれない」
「……愛着なんて消したらやべぇだろ」
言いながら航太の隣へ横向きに腰かけた。頬杖をつき、彼の横顔をじっと見つめる。
「危険性は僕も理解している。でも彼女が、どうしても消してほしいと言うのなら、協力しようと思う」
「協力って、どうすんだよ? どこにあるのか分かったのか?」
「ああ、おそらくこれだ」
航太はノートパソコンを動かして、検索結果を見せた。
「
「え、マジで?」
びっくりしてオレは目をまん丸にしてしまった。
航太がクリックして情報を開いたが、表示されたのはタイトルだけだ。
「どうやらロックされてるらしい」
「虚構記憶が? 懐旧記憶じゃあるまいし、んなことありえんのかよ」
妙なことになってきたのを感じて少しそわそわする。
「信じがたいのは僕もだ。だが、このせいで管理部でも手出しができないと判断して、これまで消去されずにいたんだろう」
「マジかよ。やっぱりあの女、本当は消してほしくないんじゃねぇの?」
「そうとは言いきれないだろう。とにかくこの結果を踏まえて、もう一度話し合う必要がある」
あいかわらず航太は真面目だ。オレは食卓に置かれたままの急須へ手を伸ばし、キッチンへ向かった。
電気ケトルに水を入れて湯を沸かし、二煎目を淹れる準備をする。
何か作業をしていた航太がふと言った。
「もう昼食の時間だな。楓、何食べたい?」
振り返り、オレは即答した。
「かき氷食いたい」
「それは昼食じゃないな。まあいい、どこかへ食べに行こう」
と、航太が呆れたようにくすりと笑った。
航太とはやりたいこと、行きたいところがたくさんある。この夏を二人で思いきり楽しみたかった。