少年は半ば見下すように「まさか」と笑い、日南へ返した。
「それなら動機は何です?」
「……動機は、まだ分からない」
日南が敗北を認めると、少年はくすくすと笑った。
「ええ、そうですよ。僕がみんなを殺しました」
急な告白に少なからずオレも驚いた。
少年は窓辺へ寄り、差し込む外光を受けながら話し始める。
「僕は最初に生まれたんです。この世界ができて間もなく、参加者にイメージをつかんでもらうために、サンプルキャラクターとして生まれたんですよ」
逆光の中で微笑む彼は、まるで絵画のようだ。
「だから僕は、この世界とのつながりが誰よりも深かった。だから僕には、作者の心の声が聞こえていたんです」
「作者の心の声?」
航太が怪訝そうに眉を寄せ、少年は続ける。
「作者は僕に友人を作ってくれました。大好きなぬいぐるみもたくさん用意してくれて、僕はこの学校で充実した日々を送っていました。毎日本当に楽しかった。だけど、あってはならないことが起きてしまったんです」
少年は淡々としながらも、どこか怒りを抑えるような声で言う。
「性転換する薬という、世界観にそぐわないものを持ち込んできた人がいたんです」
「くだらねぇ」
思わず口から漏れていた。創作企画というものからしてくだらねぇが、性転換する薬なんてファンタジー中のファンタジーじゃねぇか。オリジナリティの欠片もない。
かまうことなく少年は続けた。
「作者は優しいから受け入れてしまいましたが、僕はずっと不満でした。それは違うんじゃないかと、ずっと思っていました。そしてその結果、この世界は閉じられてしまったんです」
少年がため息をつき、オレたちへ背中を向けた。
「この世界から次々に人がいなくなったのは、現実世界の参加者が見て見ぬ振りをしたからです。企画から離れていってしまったからです」
日南が小さく息をつくのが見えた。
「楽しかった日々は一変して、二度と戻ることはありませんでした。僕はもっとここで学びたかったのだけれど、作者はもう僕たちの日々を想像してくれませんでした」
こんな虚構の住人、これまでいなかった。作者の存在を知覚している住人なんて聞いたことがないと思ったが、その答えはすぐに出た。
「ある時、僕は作者の心の声を聞きました。ほとんど憎んでいると言ってもいいくらいに、作者はこの世界を強く消したがっていました」
ああ、それで作者の存在を知っていたのか。なかなか興味深い事象だ。
「だから、僕が消してあげることにしたんです」
彼が再びこちらへ顔を向けた。
「作者があれほど願っているのに消去されないのなら、内側から壊すしかない。最初に生まれた僕だからこそ、この世界の最後を見届けるべきだとも思いました。だから、苦しかったけどみんなを殺したんです」
「それなら、俺たちが来る前に死んだ七人は?」
もう一人の男の問いかけに少年は首を横へ振る。
「かろうじて残っていた参加者たちです。でも、消すのは簡単でした。彼らは
たまにそういう住人がいる。消すまでもない記憶もアカシックレコードには記録されているのだ。
「それらを先に片付けてから、作者のキャラクターに手をかけたと、そういうことか?」
航太がたずねると、少年はうなずいた。
「ええ、そうです。僕の大事な友人たちを殺すのは、本当に辛かった。だけど、作者が望んでいることなんだから、誰かがやらなければいけません。そういった意味では、僕は少しも後悔なんてしてないんですよ」