多数を相手にする時ほど、オレの大鎌が威力を発揮する。振り下ろしたり、薙ぎ払ったりするだけで一気に虚構の住人の数は減り、その分だけ仕事も早く終わる。
「っつーわけだから死ね!」
いつものように勢いよく鎌を振るっていた時だった。
急に目の前が光ったかと思うと真っ暗闇になり、脳味噌がぐらりと揺れる感覚がした。
「楓!?」
「嘘、マーキングが切れちゃってるじゃない!」
航太と土屋さんの声がする。でも、息ができない。なのに苦しくはなくて変な感じだ。
自分がどういう状態にあるのか把握できずにいると、唐突に視界が戻った。
はっと呼吸をして、オレは瞬きを繰り返す。いつの間にか地面に倒れていたようだ。
「大丈夫か?」
心配そうな顔で航太がのぞき込んでいた。
「……うん」
うなずくオレだが、声がうまく出なかった。かと思えば、自分の体が消えかかっているではないか。
「まずいな、接続が切れかかってる。一旦戻った方がいい」
「じゃあ、ここは私に任せて。千葉くんは早く田村くんを」
「分かりました」
航太がオレを抱き起こし、まっすぐに目を見つめて言う。
「現実世界に戻るぞ」
オレは黙って顎を引いた。
消えかかった手で自分のマーキングをつかみ、意識を現実世界へと移動させる。
「びっくりしたよ! 大丈夫、ではなさそうだね」
戻った途端、RASのオペレーターが叫んだ。
「すぐに医務室へ連れて行きます」
と、航太の声がする。
「分かった。医務室にはこっちから連絡しておくよ」
「ありがとうございます」
慌てた様子の航太が駆け寄ってくるが、オレは体が重くて動けなかった。
「意識はあるか?」
オレはかろうじて目を動かし、航太がうなずく。
そして航太に抱き上げられ、オレはぐったりとしたまま彼に体を預けた。
医務室へ入るのは初めてだ。
すぐにオレはベッドへ寝かされ、航太が産業医へ事情を説明する。
「虚構世界に入っていた時にマーキングが切れてしまったんです。すぐにつなぎ合わせることで接続は取り戻せたんですが、不安定になっていたので急いで戻って来ました」
「そうでしたか。たまにあるんですよね、マーキングの切断事故」
そう言いながら産業医はこちらへ来ると、脈や呼吸を測った。
「気分はどうですか?」
「気持ち、悪い……」
「吐き気? めまい? それともですか?」
「め、まい……」
あまりに気持ち悪くてまともに目も開けていられない。呼吸をするのも
「受け答えができるので、しばらく休んでいれば回復するでしょう。ただし、今日はもう仕事はなしですね」
「そうですか、分かりました。それじゃあ、仕事が終わったら迎えに来ます」
「分かりました」
航太が心配そうな顔でオレを見てから、「よろしくお願いします」と産業医に頭を下げ、出ていった。
オレはぼーっとする頭でめまいを感じながら、いつの間にか眠りについていた。