金曜日の仕事終わり、オレは航太と一区のショッピングモールへ来ていた。
「おおー」
スポーツショップの並ぶフロアに水着もあり、そのカラフルさに心が沸き立つ。レディースに負けず
「けっこういろいろあるな。好きなものを選べそうだ」
「ああ、これだけあったら迷っちまうぜ」
ましてや水着を買うなんて初めての経験だ。
オレはわくわくしながら、とりあえず手近なものから見ていくことにする。
「お、これかっこいい」
最初に目を留めたのは青のグラデーションが印象的な海パンだ。ラックからハンガーのついたまま取り出して、自分の腰へ当ててみる。
「サイズ、でかくないか?」
「ウェストはゴムだし、いけんじゃね?」
「いや、楓はMサイズでもだいぶ余裕があるからな……気に入ったものがあれば、Sがないか店員に聞いてみた方がいい」
なるほど、そういうものか。
オレが手にした海パンをラックへ戻したところで、航太はまた口を開く。
「それと、中にインナーを履いた方がいいぞ」
「インナー?」
「水に濡れたら生地が透ける場合があるし、インナーを履くことで安定感も得られる」
「へぇ、そうなのか」
まったく知らなかった。地球にいれば、友達とプールや海へ行くこともあっただろうに、オレにはそうした経験がないから無知だ。
「あとラッシュガードも買ってくれ」
急にアドバイスではなく頼みになった。怪訝に思って振り返ると、航太は視線が合うなり、にこりと笑う。
「楓の裸をあまり他の人に見られたくない」
「……嫉妬か?」
航太にしてはめずらしいと思ったが、考えてみれば、彼の嫉妬から交際が始まったようなものだ。普段は表に出さないだけで、航太も嫉妬することがある。
「それにほら、お前、乳首弱いだろ?」
「っ、殴るぞ?」
顔を真っ赤にしつつにらみつけて、オレはふんとそっぽを向く。まったくどういう意味で言ってるんだか。
後ろで航太がくすくすと笑っているのが分かり、オレは無視して水着選びを再開する。
しかしSサイズのものは少なく、結局は
黒地に赤や白などで模様の入った海パンと黒のインナー、そして灰色のラッシュガードを購入し、ひとまずの買い物は終了した。
「せっかくだし、どこかで食べていくか」
「ああ、そうしよう」
話をしながらレストランフロアへ向かって移動する。
「そういえば、気になってる店があるんだった」
「どこだ?」
「えっと、蕎麦屋。名前はたしか……日本蕎麦すばるだ」
フロア案内図で位置を確認しながらオレは言い、航太は「蕎麦か。行ってみよう」と、意見を受け入れてくれた。
少し奥の方へ進むと、目指す看板が見えてきた。
「あった!」
ずっと気になっていた蕎麦屋なのだが、店の前には行列ができている。
「待ってる人が大勢いるな。どうする?」
腹はすでにぺこぺこだ。待ってもいいけど、店内へ入るまでにどれくらいかかるだろうか。
「やめよう。また今度にする」
残念だけど、人気店だと分かっただけでも収穫だと思うことにした。今度は混んでいない時間を狙って来ればいい。
「分かった」
しょんぼりするオレの頭を軽く撫でて、航太は言った。
「それじゃあ、他の店を探そう」