朝、いつもの時刻に六組のオフィスへ出勤したらびっくりした。目の前に日南隆二が立っていたのだ。
身長はオレの方がわずかに低いが、目線の高さはほぼ一緒。思わず目が合ってしまうのも無理はなく、だからこそ困惑した。
日南もこの状況にどぎまぎしている様子だったが、にこやかに声をかけてくる。
「おはよう」
無性に腹が立ってオレは眉間に軽くしわを寄せ、彼を無視した。
六組の人たちへ向けて「おはようございます」と言った時には、日南はもう廊下へと去っていた。
不機嫌にロッカーへ鞄をしまい、すぐにオレは航太の方へ向かう。
「あいつ、まだお前に用があったのか?」
「ああ、去年の事故のことで聞きたいことがあるらしい」
何の話かさっぱり分からなかったが、とにかくムカつく。朝から日南の顔なんて見たくなかった。
「昼、食堂で話をすることになったんだが、楓も一緒に」
「今日はオレ、売店で買うからいい」
即座に返してオレは土屋さんの方へ向かう。
「……そうか」
と、航太がどこか残念そうに言った。
昼にまたあいつと顔を合わせるなんてごめんだ。航太には申し訳ないけど、これ以上イライラさせられたくなかった。
昼休みに入ると、予定通り航太は食堂へ向かっていった。
オレは売店でメロンパンとレモン牛乳を買い、六組へ戻った。
室内にいるのはB班の班長である舞原さんと、A班の樋上さんだけだ。他の人たちも食堂へ行っているらしい。
無言で自分の席へ座り、メロンパンの袋を開けた時だった。
「天邪鬼になるのもほどほどにした方がいいわよ」
ふいに舞原さんが言い、樋上さんがむせた。ドキッとしてオレも視線をやると、舞原さんは弁当を食べながらこちらをちらりと見る。
「田村くんも素直になる練習をするべきだわ」
……も?
「ちょ、舞原さん……俺が何だって言うんすか」
やっと落ち着いた樋上さんが苦い顔をし、舞原さんは言う。
「あなた、土屋さんのこと好きでしょう?」
「はあ!?」
オレは思わず声を上げてしまった。あの皮肉屋の樋上さんが性悪の土屋さんを!?
しかし、樋上さんは頬を紅潮させてそっぽを向く。
「別に、そんなんじゃねぇです」
「そういう態度がよくないの。いつまでも天邪鬼でいると、逃すことになるわよ? 取り返しがつかなくなってから泣き言を言ったって遅いんだから」
彼女の言葉は樋上さんだけでなくオレにも突き刺さる。
でも、素直になるのは難しい。
「あいつ、ずっと婚活してるじゃないすか。せっかく頑張ってるのに、俺が口出すわけにはいかないでしょ」
樋上さんがもごもごとそんなことを言い、舞原さんは息をつく。
「いいわ、いつまでもそうやって
突き放すように言われて樋上さんは口を閉じる。
オレも身につまされながら、黙々とメロンパンをかじった。