次の日、昼休みに入るなり航太はオレに声をかけた。
「すまない、楓。今日は開発研究部に用があるから、昼食は売店で買って食べるよ」
「えっ、食堂行かないのか?」
きょとんとするオレへ、航太は申し訳無さそうに眉尻を下げて笑う。
「ごめん」
「……分かった」
二日続けて航太と昼食が取れなくなるなんて思わなかった。しょげるオレの頭を軽く撫でてから、航太はさっさと廊下へ出ていった。
開発研究部にいったい何の用があるのだろう? 泡沫記憶のことかと思ったが、それにしても急だ。
仕方ないからまた売店にでも行こうかと席を立った時、後ろから樋上さんに肩を抱かれた。
「おい、田村。よければ一緒に飯食おうや」
「え、急に何すか? 昨日の話っすか?」
オレがいかにも嫌そうな顔をすると、樋上さんは目を細める。
「分かってんじゃん」
今日もオレが一人だから、昨日の話をしたいらしい。
一人で食べるよりは誰かと一緒の方がいいかと思い、ため息まじりに言った。
「分かりました。食堂でいいっすか?」
「ああ、行こうぜ」
樋上さんに背中を押されてオレは歩き出す。まったく、何なんだこの人は。
食堂で向かい合って座り、それぞれに昼食を始めたところで彼が言う。
「俺さ、前から田村に親近感覚えてたんだよな」
「はあ」
「でもさ、何であの模範的優等生である千葉と付き合ってるのか、いまいち分かんねぇんだ」
周りに知り合いがいないせいだろうか。樋上さんは普段と違って普通だ。
オレも別に天邪鬼になる必要性を感じなかったため、素のテンションで答える。
「……類友、じゃないすかね」
樋上さんは目を丸くした。
「類友? どこが?」
「あんまり人に言いたくないんすけど、オレの父親、宇宙放射線減退シールドを実用化させたんですよ」
「ん?」
「他にも、スペースコロニーに必要なシステムの設計にいくつか関わってて」
「んん?」
「で、オレは宇宙育ち」
樋上さんは真顔でオレを見つめる。
「
オレは軽く苦笑しながら結論を口にした。
「自慢する気はないし、父親と同じ方向に進みたくないんで、今は『幕引き人』やってますけど、会話のレベルが航太とは合うんすよ」
「田村に親近感覚えてたのは勘違いだったらしい」
「でしょうね」
樋上さんが深々とため息をついた。
「ったく、そういうことかよ。っつーかテンション低いな、お前」
「いや、樋上さんといてもテンション上がらねぇですし」
「何でそういうとこだけ素直なんだよ」
すかさずツッコまれて、オレは少しだけ笑ってしまった。
「樋上さんだって同じでしょう? 他の人たちがいる前だと素直になれないだけで、二人きりになればちゃんと話せる」
「……否定はしない」
むすっとしつつも肯定した樋上さんがおかしくて、オレはにやりと口角を上げた。
「土屋さんのことが好きなら、さっさと告白しちゃえばいいのに」
「あっ、てめぇまで言うか! 俺の気持ちも知らないでっ」
「これじゃあ皮肉屋樋上じゃなくて、日和屋樋上っすね」
「おいこら、年上をからかうな!」
言いながら樋上さんもどこか楽しげだ。
意外と普通の人らしいと知って、オレは少しだけ彼に親近感を覚えた。