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第61話 親近感

 次の日、昼休みに入るなり航太はオレに声をかけた。

「すまない、楓。今日は開発研究部に用があるから、昼食は売店で買って食べるよ」

「えっ、食堂行かないのか?」

 きょとんとするオレへ、航太は申し訳無さそうに眉尻を下げて笑う。

「ごめん」

「……分かった」

 二日続けて航太と昼食が取れなくなるなんて思わなかった。しょげるオレの頭を軽く撫でてから、航太はさっさと廊下へ出ていった。

 開発研究部にいったい何の用があるのだろう? 泡沫記憶のことかと思ったが、それにしても急だ。

 仕方ないからまた売店にでも行こうかと席を立った時、後ろから樋上さんに肩を抱かれた。

「おい、田村。よければ一緒に飯食おうや」

「え、急に何すか? 昨日の話っすか?」

 オレがいかにも嫌そうな顔をすると、樋上さんは目を細める。

「分かってんじゃん」

 今日もオレが一人だから、昨日の話をしたいらしい。

 一人で食べるよりは誰かと一緒の方がいいかと思い、ため息まじりに言った。

「分かりました。食堂でいいっすか?」

「ああ、行こうぜ」

 樋上さんに背中を押されてオレは歩き出す。まったく、何なんだこの人は。


 食堂で向かい合って座り、それぞれに昼食を始めたところで彼が言う。

「俺さ、前から田村に親近感覚えてたんだよな」

「はあ」

「でもさ、何であの模範的優等生である千葉と付き合ってるのか、いまいち分かんねぇんだ」

 周りに知り合いがいないせいだろうか。樋上さんは普段と違って普通だ。

 オレも別に天邪鬼になる必要性を感じなかったため、素のテンションで答える。

「……類友、じゃないすかね」

 樋上さんは目を丸くした。

「類友? どこが?」

「あんまり人に言いたくないんすけど、オレの父親、宇宙放射線減退シールドを実用化させたんですよ」

「ん?」

「他にも、スペースコロニーに必要なシステムの設計にいくつか関わってて」

「んん?」

「で、オレは宇宙育ち」

 樋上さんは真顔でオレを見つめる。

天上人てんじょうびとかよ」

 オレは軽く苦笑しながら結論を口にした。

「自慢する気はないし、父親と同じ方向に進みたくないんで、今は『幕引き人』やってますけど、会話のレベルが航太とは合うんすよ」

「田村に親近感覚えてたのは勘違いだったらしい」

「でしょうね」

 樋上さんが深々とため息をついた。

「ったく、そういうことかよ。っつーかテンション低いな、お前」

「いや、樋上さんといてもテンション上がらねぇですし」

「何でそういうとこだけ素直なんだよ」

 すかさずツッコまれて、オレは少しだけ笑ってしまった。

「樋上さんだって同じでしょう? 他の人たちがいる前だと素直になれないだけで、二人きりになればちゃんと話せる」

「……否定はしない」

 むすっとしつつも肯定した樋上さんがおかしくて、オレはにやりと口角を上げた。

「土屋さんのことが好きなら、さっさと告白しちゃえばいいのに」

「あっ、てめぇまで言うか! 俺の気持ちも知らないでっ」

「これじゃあ皮肉屋樋上じゃなくて、日和屋樋上っすね」

「おいこら、年上をからかうな!」

 言いながら樋上さんもどこか楽しげだ。

 意外と普通の人らしいと知って、オレは少しだけ彼に親近感を覚えた。

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