昼休みまであと少しという頃、航太が土屋さんへたずねた。
「実は今、降雨装置について調べてるんです。去年、大雨が降った日、土屋さんはどこにいましたか?」
オレは航太の方を振り向き、様子をうかがう。
土屋さんは航太を見ると首をかしげた。
「さあ、どうだったかしら……」
あまりに唐突な質問だ。すぐに答えられないのも無理はないが、オレは二人の後ろから口を挟む。
「オレは独身寮まで走って帰ったぜ」
航太がこちらをちらりと見上げて言う。
「近くではあるけど、濡れただろう?」
「ああ、びしょびしょだった。でもすげー楽しかった」
オレはあの日のことをよく覚えているのだ。雨に濡れるのがとても気持ちよかったから。
すると航太が優しく微笑んだ。
「宇宙には雨なんてないもんな」
オレたちを見ていた土屋さんが半分呆れたようにこぼす。
「田村くんって、やっぱり時々可愛いのよね」
やっぱりって何だよと思いつつ、オレは慌てて背中を向けてうつむいた。みんなが見ている前なのに、うっかり素直になってしまった!
「そうだ、思い出した。お酒を飲みに行ったわ」
と、土屋さんが思い出した様子で答えると、樋上さんが口を出した。
「女一人で? ナンパされに行ったのか?」
「ダメですよ、樋上さん。セクハラ通り越してただの
すかさず深瀬さんがとりなすと、土屋さんの不機嫌な声がする。
「別にいいですよ。わたし、そういうの気にしませんから」
まったく樋上さんはダメダメだ。皮肉屋なせいで悪い印象しか与えられない。
航太はそんな彼らにもたずねた。
「よければ、お二人にも聞かせてもらえますか? 大雨の日、どこにいましたか?」
オレはそろりと自分の席へ戻り、小さく息をついた。
彼の質問が何を意味するのか、ふと考えてみて嫌な予感を覚える。そういえば、少し前に航太と北野響の話をしなかったか?
北野響が事故に
そして北野響と言えば、日南隆二が接触した「幕開け人」の名乗った名前だ。
「……」
なんとなく情報はつながったが、それで航太が何を知ろうとしているのかが分からない。しかも一年以上前のことだ。今さら調べて何が分かるというのだろう?
仮に北野響を名乗った人物について調べているとしても、それならオレたちに質問をする意味がない。
オレがもやもやしているうちにB班の三人が戻ってきて、航太は彼女たちにも同じ質問をしたのだった。