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第63話 大雨の降った日

 昼休みまであと少しという頃、航太が土屋さんへたずねた。

「実は今、降雨装置について調べてるんです。去年、大雨が降った日、土屋さんはどこにいましたか?」

 オレは航太の方を振り向き、様子をうかがう。

 土屋さんは航太を見ると首をかしげた。

「さあ、どうだったかしら……」

 あまりに唐突な質問だ。すぐに答えられないのも無理はないが、オレは二人の後ろから口を挟む。

「オレは独身寮まで走って帰ったぜ」

 航太がこちらをちらりと見上げて言う。

「近くではあるけど、濡れただろう?」

「ああ、びしょびしょだった。でもすげー楽しかった」

 オレはあの日のことをよく覚えているのだ。雨に濡れるのがとても気持ちよかったから。

 すると航太が優しく微笑んだ。

「宇宙には雨なんてないもんな」

 オレたちを見ていた土屋さんが半分呆れたようにこぼす。

「田村くんって、やっぱり時々可愛いのよね」

 やっぱりって何だよと思いつつ、オレは慌てて背中を向けてうつむいた。みんなが見ている前なのに、うっかり素直になってしまった!

「そうだ、思い出した。お酒を飲みに行ったわ」

 と、土屋さんが思い出した様子で答えると、樋上さんが口を出した。

「女一人で? ナンパされに行ったのか?」

「ダメですよ、樋上さん。セクハラ通り越してただの侮辱ぶじょくだし、時代遅れです」

 すかさず深瀬さんがとりなすと、土屋さんの不機嫌な声がする。

「別にいいですよ。わたし、そういうの気にしませんから」

 まったく樋上さんはダメダメだ。皮肉屋なせいで悪い印象しか与えられない。

 航太はそんな彼らにもたずねた。

「よければ、お二人にも聞かせてもらえますか? 大雨の日、どこにいましたか?」

 オレはそろりと自分の席へ戻り、小さく息をついた。

 彼の質問が何を意味するのか、ふと考えてみて嫌な予感を覚える。そういえば、少し前に航太と北野響の話をしなかったか?

 北野響が事故にったのは、まさに大雨の降った日だった。

 そして北野響と言えば、日南隆二が接触した「幕開け人」の名乗った名前だ。

「……」

 なんとなく情報はつながったが、それで航太が何を知ろうとしているのかが分からない。しかも一年以上前のことだ。今さら調べて何が分かるというのだろう?

 仮に北野響を名乗った人物について調べているとしても、それならオレたちに質問をする意味がない。

 オレがもやもやしているうちにB班の三人が戻ってきて、航太は彼女たちにも同じ質問をしたのだった。

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