毎日いろんな虚構世界へ入るが、今日のはやばかった。いかにも少女漫画的な優雅で華麗な学園が舞台で、そこにいる登場人物といえば。
「おやおや、麗しのレディ。愛明学園に何の御用ですか?」
高身長、イケメン、イケボと三拍子そろった男たち。心なしかキラキラと輝いて見える。
「ひぇっ……」
土屋さんがらしくもなく顔を赤くさせ、かちこちに固まっていた。どうやらイケメンに間近で見つめられて、ときめいてしまったらしい。
少し離れたところでその様子をながめながら、オレは呆れ半分に口を開く。
「おい、航太。どうすんだよ、これ」
隣で航太は真面目な顔をしながら言った。
「おもしろいからもう少し見てるか?」
「やめろって。いや、たしかにおもしろいけどさぁ」
と、オレが笑い声を上げた直後、どこからか別のイケメンがやって来た。
「こんなところにも可愛らしい仔猫ちゃんがいるじゃないか」
紺色の髪に色黒のイケメンが見ていたのはオレだ。
「え? いやいや待て待て!」
近づいてくるイケメンにびっくりして後ずさる。イケメンは足を止めるとにっこりと微笑んだ。
「よければ俺が学園を案内し――」
言い終わらぬうちに、イケメンのこめかみを矢が貫通した。五メートルも離れていない至近距離から航太が撃ったのだ。
明確な殺意を感じ、オレは目をぱちくりさせて言う。
「お、おお……ここが虚構だって、まだ伝えてねぇけど」
「別にそれでペナルティがあるわけじゃないんだ。かまわないだろう」
顔は冷静だが、どうやら怒っているらしい。航太にもこんな一面があったんだな。
新鮮に感じつつ、気を取り直してオレも武器を取り出した。
「じゃあ、さっさと片付けちまおうぜ」
「ああ。楓を口説く男は誰であっても許さない」
航太が口説かれるパターンもあるんじゃないかと思いつつ、大鎌を振り上げて土屋さんの方へ駆け出す。
「土屋さん、どいてください!」
はっとした彼女が横へ逃げ、オレは勢いよくイケメンの首を狩った。綺麗に飛んだ血しぶきが虹を描く。
まったく妙な世界だと内心で呆れつつ、オレは班長を振り返った。
「さっさと終わらせましょう」
「そうだったわね。うっかり乙女心が刺激されてしまったわ」
自戒を込めた口調で言いながら、土屋さんも拳銃を取り出してかまえた。
「土屋さんにも乙女心があるんすね」
笑いながら言い、オレは再び駆け出す。向かった先にはイケメンの群れ。
「うるさいわね!」
大声で返しながら土屋さんも発砲し、散り散りに逃げ出すイケメンたちを撃っていく。
航太の矢も次々と放たれて、数分後にはイケメンの死体が山のように積まれているのだった。