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第64話 イケメンの群れ

 毎日いろんな虚構世界へ入るが、今日のはやばかった。いかにも少女漫画的な優雅で華麗な学園が舞台で、そこにいる登場人物といえば。

「おやおや、麗しのレディ。愛明学園に何の御用ですか?」

 高身長、イケメン、イケボと三拍子そろった男たち。心なしかキラキラと輝いて見える。

「ひぇっ……」

 土屋さんがらしくもなく顔を赤くさせ、かちこちに固まっていた。どうやらイケメンに間近で見つめられて、ときめいてしまったらしい。

 少し離れたところでその様子をながめながら、オレは呆れ半分に口を開く。

「おい、航太。どうすんだよ、これ」

 隣で航太は真面目な顔をしながら言った。

「おもしろいからもう少し見てるか?」

「やめろって。いや、たしかにおもしろいけどさぁ」

 と、オレが笑い声を上げた直後、どこからか別のイケメンがやって来た。

「こんなところにも可愛らしい仔猫ちゃんがいるじゃないか」

 紺色の髪に色黒のイケメンが見ていたのはオレだ。

「え? いやいや待て待て!」

 近づいてくるイケメンにびっくりして後ずさる。イケメンは足を止めるとにっこりと微笑んだ。

「よければ俺が学園を案内し――」

 言い終わらぬうちに、イケメンのこめかみを矢が貫通した。五メートルも離れていない至近距離から航太が撃ったのだ。

 明確な殺意を感じ、オレは目をぱちくりさせて言う。

「お、おお……ここが虚構だって、まだ伝えてねぇけど」

「別にそれでペナルティがあるわけじゃないんだ。かまわないだろう」

 顔は冷静だが、どうやら怒っているらしい。航太にもこんな一面があったんだな。

 新鮮に感じつつ、気を取り直してオレも武器を取り出した。

「じゃあ、さっさと片付けちまおうぜ」

「ああ。楓を口説く男は誰であっても許さない」

 航太が口説かれるパターンもあるんじゃないかと思いつつ、大鎌を振り上げて土屋さんの方へ駆け出す。

「土屋さん、どいてください!」

 はっとした彼女が横へ逃げ、オレは勢いよくイケメンの首を狩った。綺麗に飛んだ血しぶきが虹を描く。

 まったく妙な世界だと内心で呆れつつ、オレは班長を振り返った。

「さっさと終わらせましょう」

「そうだったわね。うっかり乙女心が刺激されてしまったわ」

 自戒を込めた口調で言いながら、土屋さんも拳銃を取り出してかまえた。

「土屋さんにも乙女心があるんすね」

 笑いながら言い、オレは再び駆け出す。向かった先にはイケメンの群れ。

「うるさいわね!」

 大声で返しながら土屋さんも発砲し、散り散りに逃げ出すイケメンたちを撃っていく。

 航太の矢も次々と放たれて、数分後にはイケメンの死体が山のように積まれているのだった。

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