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第66話 オレの味方

「今日はどこも行かないのか?」

 いつものように食堂で航太と向き合って昼食をとりながら、オレはたずねた。

「ああ、今日はいいかな」

 と、航太が何とも微妙な返事をする。今週は昼食の後にいつもあちこち調べ回っていたのに、今日はどこへも行かないらしい。

 詮索しようかどうかと少し考えて、やっぱり聞いてみた。

「日南といったい何を調べてるんだよ」

 五秒ほどの沈黙の後で航太は穏やかな顔をする。

「この前、大雨の日のことを聞いただろう? もしかすると、あの日が人生で最後の雨になるかもしれない。だから他の人たちが何をしてたか、気になってな」

「……ふーん」

 航太はオレを見ない。普段なら、嫌になるほどこっちを見て話すくせに。

 ということは、航太はきっと本当のことを話していない。嘘とまでは言わないけど、隠しているのはたしかだ。

「そういえば、地図デバイスの制作はどうだ? 進んでるか?」

 と、航太がオレを見た。

「ああ、今は搭載とうさいするアプリを作ってるところだ」

「見た目は紙っぽくなりそうか?」

「うーん、あらためて見たら微妙だった。外側ばっかりは今の環境じゃ、理想を追求できねぇから悔しいよ」

「そうだよな。独身寮のワンルームだし、3Dプリンターがあるわけでもないし」

「そう、3Dプリンター。実家に帰ればあるんだけどさ、わざわざそのためだけに帰るのは嫌だなって思ってんだ」

 ふと航太が手を止めて首を軽くかしげた。

「そういえば、楓の両親ってどんな人たちなんだ? 厳しいのか?」

「えっ……いや、厳しくはない。むしろ、自由な方だと思う」

「子どもの自主性を重んじる?」

「うーん」

 どう説明したらいいかと考えて首をひねる。

「親父はどんなことでも認めて、応援してくれる。母さんはちょっと厳しい。髪の毛を初めて金髪にした時、めちゃくちゃ怒られて喧嘩になった」

「どうして?」

「不良だって。だから不良で悪いかよって返したら、その日の夕飯なしにされた。けど、親父は母さんを傷つけることだけは許さないから、結局親父にも怒られてさ」

 思い出すと自然に苦笑が漏れる。

「でも、オレが高校やめたいって言った時には、二人とも何も言わなかった。その後、ニートになって好き勝手なことしてたけど、やっぱり何も言わねぇんだ。逆にそれが辛くなっちまって……で、独身寮に引っ越したってわけ」

「両親はお前が『幕引き人』になるって言った時、どんな反応だった?」

「やりたいことがあるならやりなさいって、応援してくれたよ」

 なんだかんだで両親はいつだってオレの味方なのだ。ただ、オレが不良になることだけは見過ごせなかった。

 今となっては悪かったと思っているが、そのせいで中身までは不良になれなかったのがオレだ。本当は喫煙や飲酒にも手を出したかった。

「そうか。いい両親だな」

 航太がにこりと安心したように笑い、オレは反対にむっとした。

「お前の話も聞かせろよ」

「ああ、また今度な」

 と、航太はさらりとかわして最後の一口を咀嚼する。

 今度っていつだよと脳は文句を言いたがるが、心は彼を信じて待つと言う。オレは後者に従うことにして、それ以上は何も言わなかった。

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